雲から山の天気を学ぼう|(55)~くもりのち雨”予報で山に行く?~

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くもりのち雨”予報で山に行く?

今日は、友人と唐松岳に行ったときに見られた雲について紹介します。この日は、山麓の白馬村は朝から曇り空。山は雲に覆われて全く見えません。
山麓の天気予報は「曇りのち雨」、また、某民間気象会社の白馬岳の予報も「曇りか霧時々雨」でした。あなただったら出発しますか?

図1 登山当日の天気図

前日に確認した予想天気図(上図は当日9時の速報天気図だが、前日の予想天気図とほぼ同じ)によれば、南海上に台風10号がありますが、日本列島からはまだ離れています。また、等圧線の向きから、風は気圧が高い方を右手に見て等圧線にほぼ平行に吹くので、北アルプスでは南東風が卓越することが予想されます。山の天気は海側から風が吹くと崩れる傾向にありますが、南東風は北アルプスから見れば陸側からの風となるうえ、南東側に中部山岳の高い山々があるので湿った空気が入りにくい風向になります。しかしながら、午後になると、九州の北西にある低気圧が接近してくるため、天気が崩れることが予想されてました。さらに、山麓では朝からどんよりと曇っています。もし、唐松岳が霧に覆われているようであれば、友人は行きたくないと言っていたので、登山を中止したでしょう。
山麓では雲に覆われて、山は霧に包まれているように見えますが、上部では午前中は晴れると判断し、このメンバーであれば、宿で朝食を食べてから出発しても午前中には唐松岳に到着できること(ここの朝食は非常に美味しいので何としても食べたかった)、それまでは唐松岳は雲の上に出ているため、晴れている可能性が高いことを説明し、天気が崩れる前には降りたいという友人の希望に沿って八方池と上の樺にタイムリミットを設定して出発しました。
唐松岳が晴れていると予想した理由のひとつは、雲の種類にあります。山麓を覆っている雲はうね雲、という低い雲であり、雲のてっぺんは、高度約2,000mから2,200m付近であるため、それより標高の高い場所では晴れている可能性が高いこと、さらに衛星画像から唐松岳付近に雲がかかっていないことが確認できたからです。
他にも、山頂近くにライブカメラがある場合、それを利用する手もあります。

写真1 うね雲が広がり、雲と雲の隙間が明るいときは山の上は晴れている可能性も

リフトを乗り継いで到着した八方池山荘はガスガス(濃い霧のこと)でしたが、出発してしばらく歩くとガス(霧)が薄くなる時間があり、上空は少し明るくなっています。このようなときは、雲が薄く、雲頂高度が低い証拠。つまり、雲のてっぺんが近づいてきているので、高度をあげれば晴れることが多いです。

写真2 霧に覆われる登山道。空の明るさをチェック

それを期待して前進していくと・・・。

写真3 八方尾根上部から見た雲海

2,550m付近で雲の上に出ました!振り返ると信州側(東側)には雲海が広がっています。雲頂高度が一定(写真3 の赤線部分)で、この上に安定層があります。この安定層が破壊されたり、上にあがっていかなければ、お天気は持ちます。

写真4 安定層が破壊されつつある様子

しばらくすると、雲の上端がもくもくしてきています(写真4の赤線部分)。安定層が破壊されてきて、雲が安定層を越えて成長し始めています。

写真5 白馬連峰に迫る雲海

八方池山荘から2時間もかからずに稜線に到着したおかげで、下から上昇しつつある雲に追いつかれませんでした。そこから10分程度歩いた山頂からは、友人が楽しみにしていた剱岳や立山連峰を見ることができました!上の写真は唐松岳付近からの白馬三山方面(北側)です。白馬三山も晴れていますが、大分、雲の上端がもくもくとして高度が上がってきています。

写真6 稜線を覆い始める雲

やがて、稜線の低い所を越えてきました。こうなると、天気が崩れるのは時間の問題です。

写真7 霧に覆われた稜線

15分もすると、写真7のような感じになりました。この後は、天気予報通りに天気が崩れていきました。山麓が雲に覆われていても、雲の高さが低ければ、その上は晴れていることがあります。夏の富士山などは、そのようなことが多いです。
登山中に、雲海が見られたときは、その高度の変化と、雲のてっぺんの形に注意すると、今後の天気の変化が予想できますよ。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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猪熊隆之(いのくまたかゆき)

国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテン http://yamatenki.co.jp/ の代表取締役。中央大学山岳部監督。国立登山研修所専門調査委員及び講師。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。チョムカンリ登頂(チベット)、エベレスト西稜(7,700m付近まで)、剣岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀歴がある。著書に山の天気にだまされるな(山と渓谷社)、山岳気象予報士で恩返し(三五館)、山岳気象大全(山と溪谷社)。共著に山の天気リスクマネジメント(山と渓谷社)、安全登山の基礎知識(スキージャーナル)。

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