雲から山の天気を学ぼう|(47)竜ヶ岳 空見ハイキングで見られた雲

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~竜ヶ岳 空見ハイキングで見られた雲~

今回は、竜ヶ岳観天望気講座の際に見られた雲についてです。この日は富士山麓でも快晴の天気。このままでは雲の解説ができない!と焦り始めた(笑)とき、神の助けとばかりに、現れた雲があります。
写真1をご覧いただくと、富士山の右側(南側)にもこっとした雲がありますね。これを積雲(せきうん)、または綿雲(わたぐも)と言います。綿のような形をした雲なので、そのように呼ばれますが、写真1の雲は綿よりは広がった感じですね。さて、ここで問題です!他の場所には雲が全然ないのに、どうしてこの雲はここで発生したのでしょうか?

写真1 富士山の南斜面に発生した積雲(せきうん)

正解は次の通りです。富士山の南側には駿河湾があります(写真1の右側)。駿河湾の上にある空気は、海から蒸発した水蒸気が溜まっているので湿っています。お天気が良くて風の弱い日は、陽が高くなると海から陸に向かって風が吹きます。これを海風(うみかぜ)と言います。この風によって駿河湾からの湿った空気が富士山麓に運ばれてきます。さらに、太陽からの日射で南斜面では地面が温められ、地面のすぐ上にある空気も温まっていきます。温まった空気は軽くなるので上昇していきます。空気は上昇すると、冷えていくので水蒸気が冷やされていき、やがて雲粒になっていくのです。

ところが、午後になってくると雲が発生する場所が変わってきました。

写真2 富士山の南西側に移った積雲

上の写真(写真2)を見てください。写真1では富士山の右側(南側)で発生していた雲が右手前側(南西側)に位置を変えていることが分かります。駿河湾からの海風は引き続き入ってきていますが、下層の風は麓の観測値を確認してもあまり変化がありません。ということは、考えられる原因はひとつ。太陽の位置が南西側に移ったことで、日射により温められる場所が変わったこと。これにより、上昇気流が発生する場所が変わったので雲ができる場所も変わったと思われます。太陽が気象に与える影響が大きいと改めて感じさせられました。

この日は、上空高い所に浮かんでいる雲を除いては、ほとんど雲が現れませんでした。それは高気圧に覆われていたためですが、富士山の南側の雲以外には、北アルプス方面に雲が多く現れていました。それではなぜ、北アルプス方面に雲が多かったのでしょう。

写真3 北アルプスの手前(安曇野盆地)に発生した雲

図1 ハイキング当日(17日6時)の天気図

この日は、寒冷前線が朝、北日本を通過し、日中は大陸からの高気圧に覆われていきました。ただし、前線通過後、北日本を中心に等圧線は縦じま模様となり、冬型のような気圧配置で、本州付近は北寄りの風が吹いていました。このため、日本海からの湿った空気が新潟県から千曲川、犀川の谷に沿って流れ込み、安曇野盆地に侵入して写真3のような雲(緑線で囲んだ部分)ができたのでしょう。この雲は高度が低いものだったため、北アルプスの稜線では良く晴れました。それは、上層に寒気が入らず、雲がやる気を出せなかった(上方に成長できなかった)ためです。雲は少なかったのですが、空気が今、どんな状態であるのかを私たちに語りかけてくれました。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

2020年度ヤマテン主催「山のお天気講座」

東京会場
第2回 3月28日(土)
初級編:高気圧、低気圧、前線
中級編:低気圧の発達と春山の気象リスク
会場:江戸川区民文化センター(予定)
講師:渡部(予定)
午前中に初級編、午後に中級編を予定しています。
申込・詳細につきましては、下記のページをご参照ください。https://www.meteojapan.com/information/training/10522/
※お申込み開始は2月28日(金)正午予定です。

初級編、中級編ともにそれぞれヤマテンポイント1

ヤマテンポイントについて

ヤマテンの気象予報士が講師を務める講習会にご参加いただいた皆様にポイントを進呈させていただきます。
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猪熊隆之(いのくまたかゆき)

国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテン http://yamatenki.co.jp/ の代表取締役。中央大学山岳部監督。国立登山研修所専門調査委員及び講師。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。チョムカンリ登頂(チベット)、エベレスト西稜(7,700m付近まで)、剣岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀歴がある。著書に山の天気にだまされるな(山と渓谷社)、山岳気象予報士で恩返し(三五館)、山岳気象大全(山と溪谷社)。共著に山の天気リスクマネジメント(山と渓谷社)、安全登山の基礎知識(スキージャーナル)。

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