雲から山の天気を学ぼう|(34)~尾瀬ヶ原雲見ハイキングで見られた雲partⅡ~

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~尾瀬ヶ原雲見ハイキングで見られた雲partⅡ~

前回に続き、尾瀬ヶ原雲見ハイキングで見られた雲についての解説です。

写真1 雲間から燧ケ岳が姿を現す

前回(partⅠ)は尾瀬ヶ原では高い山に囲まれていて湿った空気が周囲から入りにくく、雲が蒸発していくことを説明しました。しかしながら、一か所だけ尾瀬ヶ原にも雲が発生している場所がありました。それが上の写真1です。
竜宮小屋の少し南側から燧ケ岳方面を撮影したものですが、燧ケ岳の手前側に一面に雲が出ています。この雲はなぜ発生したのでしょうか?
答えは天気図と地図に隠されています。

図1 4日6時の地上天気図(山の天気予報 専門・高層天気図より

この日の天気図を見ると、朝鮮半島と北海道の東海上に高気圧があり(「高」と書かれている場所)、中部地方から東北地方の日本海側にかけて弱い気圧の谷があります。気圧の谷は、気圧が低い方から高い方に向かって等圧線が張り出している部分で、地図で谷を見つける方法と同じやり方で探せます。図中では、等圧線が大きく折れ曲がっている部分(図中赤い破線)になります。また、その東側には、北海道の東海上の高気圧から延びる気圧の尾根(気圧が高い方から低い方へ張り出した部分)があります。風は基本的には、摩擦の影響がなければ、地球の自転の影響で気圧が高い方を右手に見て等圧線に平行に吹きますが、尾根や谷がある場合には、尾根から谷の方へ風が吹きます。したがって、今回は橙色の矢印のように、尾瀬付近から東北地方では南東風が吹くことが予想できます。

図2 尾瀬ヶ原周辺の地図と雲が発生した場所

一方、尾瀬の南東側には奥日光の高い山が聳えているので、南東風が吹くと、湿った空気はこれらの高い山に遮られて尾瀬に入りにくい形です。また、尾瀬の中でも尾瀬ヶ原は南東側に高い山があるので、さらに湿った空気は入りにくく、このような気圧配置のとき、尾瀬は天気予報より良くなることが多くなります。このときも、山麓の予報は曇りでしたが、尾瀬は日中、青空が広がっていきました。
しかしながら、尾瀬付近の地図(図2)をよく見ると、燧ケ岳と皿伏山の間が低くなっており、その東側には尾瀬沼があります。尾瀬沼では朝霧が良く発生するように、沼の上の空気は周囲より水蒸気が多くなっています。この湿った空気が燧ケ岳と皿伏山の間の低い場所を通り抜けて尾瀬ヶ原に入ってきたのです。
なお、partⅠ(47回)でご紹介した湿った空気①、②は尾瀬ヶ原に入ると雲が消えたのに対して、こちらの湿った空気③は雲量が多かったために、蒸発しきれないで尾瀬ヶ原に入ってきたものと思われます。雲量が多かった理由は尾瀬沼の存在だけでなく、南東側から湿った空気が入ってくる気圧配置だったため、周囲が山に囲まれて盆地状の空気①、②より、尾瀬沼周辺の空気③の方が南東からの湿った空気が入りやすく、水蒸気量が多かったためでしょう。

写真2 新潟県側の空

それに対して、新潟県側では青空が広がっていました。新潟県側は燧ケ岳や尾瀬周囲の高い山の風下側に入り、湿った空気が入りにくいためです。
このように、高い山が連なる場所では、風が吹くとき、風下側の山に行くと、お天気が良くなることがあります。天気図から風向きや風の強さを読み取る方法はヤマテン主催の机上講座でも詳しく説明しますので、興味のある方はぜひ、ご参加ください。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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猪熊隆之(いのくまたかゆき)

国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテン http://yamatenki.co.jp/ の代表取締役。中央大学山岳部監督。国立登山研修所専門調査委員及び講師。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。チョムカンリ登頂(チベット)、エベレスト西稜(7,700m付近まで)、剣岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀歴がある。著書に山の天気にだまされるな(山と渓谷社)、山岳気象予報士で恩返し(三五館)、山岳気象大全(山と溪谷社)。共著に山の天気リスクマネジメント(山と渓谷社)、安全登山の基礎知識(スキージャーナル)。

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