雲から山の天気を学ぼう(第27回)

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~丹沢空見ハイキングで見られた雲partⅠ~

今回は、12月23日~24日にアルパインツアーの丹沢・塔ノ岳登頂ツアーの際に見られた雲についてです。大倉尾根を登り、山頂にある尊仏山荘に1泊して翌日、表尾根を下るゆったりプラン。雲を見る登山は1.ゆったり行程 であること、2.山頂や稜線上の小屋に泊まるか幕営する この2つが重要です。ゆったりした行程であれば、雲を眺める時間ができますし、山頂や稜線上は空が広くて雲の変化を見るのに最適だからです。さらに、朝焼け、夕焼け、夜景などのお楽しみもオマケでついてきます。

さて、丹沢は天気が変わりやすく、予想が非常に難しい山です。山の天気は「海側から風が吹くと崩れる」というのが鉄則ですが、丹沢のすぐ南には相模湾があり、東側には太平洋、南西側は駿河湾と北東から南西の風が吹くと、海からの湿った空気が入りやすいからです。

下の図を見ると、丹沢と海との位置関係が良く分かりますね。

図1 丹沢の位置

図2 23日6時の天気図(気象庁提供)

さて、23日の天気図を見ると、高気圧の中心が丹沢の西側にあります。こういうときは高気圧からの北西風が吹いてきます。図1を見ていただくと、丹沢の北西側は陸地が続いており、高い山も沢山あります。つまり、海からの湿った空気が入りにくい風向ですね。また、高気圧の中心が近づいてきて下降流域に入ります。

ということで、お天気が良くなりました。

写真1  高気圧前面に入ったときの丹沢の天気。空気が澄んだ冬の季節は、富士山はもちろん、南アルプスまで見渡せる。

一方で、翌日は朝から濃い霧に包まれました。

写真2 24日朝の塔ノ岳山頂(栗山利男さん撮影)

なぜ、1日でこうも天気が変わってしまったのでしょう(山ではよくあることですが)。
その答えを得るために、天気図を見てみましょう。

図3 24日6時の天気図

天気図を見た限りでは、丹沢付近は高気圧に覆われているように見えます。しかし、よく見てみると、高気圧の中心は丹沢より東側にあります。丹沢の天気は高気圧との位置関係に大きく左右されます。たとえ、高気圧に覆われているように見えても雲に覆われることが沢山あるのです。そういうときは天気予報を見ても参考になりません。ということで、高気圧がどういう位置にあるときに、天気が良くなったり悪くなるのかを見ていきましょう。

図4 丹沢と高気圧との関係


① は丹沢から見て高気圧が北にある場合で、高気圧からの北東風が太平洋上を通る間に湿った空気となり、丹沢を含む関東南部平野部で曇天となる形です。
② は高気圧が丹沢の東にある場合で相模湾からの湿った南風が吹きつけて丹沢では霧に覆われることが多くなります。
③ は高気圧の中心に入り、下降気流となるため、お天気は良くなります。
④ は高気圧からの湿った南西風が入るため、丹沢では霧に覆われ、風も強まることが多くなります。一方、関東平野では山を吹き降りる下降気流となるため、天気の崩れが小さくなることが多いです。
⑤ は高気圧からの北西風が吹き、中部山岳を吹き降ろして乾いた空気となるため、お天気が良くなります。

今回のハイキングでは、23日の状況は⑤の状況、24日は②の状況(partⅡを参照)になります。ただし、24日の天気図を見ると、③じゃないかと思われる方も多いでしょう。③か④かの判断は地上の天気図では難しいこともあります。そんなときは、1.現場で風向きをチェックする 2.
事前に知りたい場合は高度約1,500m の相当温位予想図を活用
24日の状況は前回(第26回)をご参照ください。

※図、文章、写真の無断転載、転用、複写は禁じる。
写真、文責:猪熊隆之

山の天気予報のご案内

ヤマテンでは、全国18山域59山の山頂の天気予報や気象予報士の解説、大荒れ情報や「今週末のおすすめ山域」、各種予想天気図、ライブカメラ、ヤマレコの最新記録などをご利用いただける「山の天気予報」を運営しています。また、年末年始やお盆期間、連休期間中の前には週間予報を発表します。ご登録方法やサービスの詳細につきましては https://i.yamatenki.co.jp/ でご確認ください。
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山の天気を実地(山)で学ぶ講座のご案内

観天望気講座を書いている猪熊隆之やヤマテンの気象予報士が講師を務める「お天気講座」を旅行会社で実施しています。山は雲を観察したり、学んだりする最高のフィールドです。それは、平地から雲を見ると、どうしても下から見上げてしまうので、平面的にしか見えないのに対し、山では、立体的に雲を捉えられるほか、稜線や尾根上では斜面を昇ってくる上昇気流によってできる雲を体感でき、山を挟んだ両側における雲の出き方の違いも観察できます。また、観天望気だけではなく、登山前日の天気図から押さえておくべきポイントや、荒れた天気の日は、気象リスクを減らすために登山者がおこなうべきことを解説し、安全登山の方法について学びます。
空気は目に見えませんが、雲は空気の状態を語ってくれています。雲の聞えない声に耳を傾けながら、楽しく山を登りましょう。皆様とご一緒できることを楽しみにしています。

ニッコウキスゲ咲く車山高原で雲を読み、天気を学ぶ 日帰り

日程:7月21日(土) ヤマテンポイント3※
企画・実施 中日ツアーズ
車山、霧ヶ峰は本州中央部に位置する2,000m級の高原。7月中旬から下旬は例年、ニッコウキスゲが咲き乱れ、草原は黄色い絨毯のように染まります。また、天気が良い日には中部山岳のほとんど全ての山を望むことができ、雲や山の天気を学ぶにはピッタリの環境です。車山ビジターセンターでミニ机上講座の後、花見と空見を楽しみます。

お申込み方法やご旅行代金などツアーの詳細については下記URLでご確認ください。
https://www.chunichi-tour.co.jp/aruku/detail.php?kiji_id=6791

薬師岳ゆったり登頂空見ハイキング 2泊3日

日程:8月3日(金) ヤマテンポイント9※
企画・実施 アルパインツアーサービス
どっしりとした優美な山容の薬師岳。日本海側の山岳の気象を学ぶのに最適な山です。花咲く高原に建つ太郎平小屋に2泊するゆったりとした日程で、周囲で発生する入道雲を眺めながら、落雷や沢の増水などの気象リスクを予想し、雲見を存分に楽しみます。

お申込み方法やご旅行代金などツアーの詳細については下記URLでご確認ください。
http://www.alpine-tour.com/japan/2018_04/091b.html

2018年9月以降の空見ハイキング、登山ツアーにつきましては下記URLでご確認ください(8ページ)。
http://www.alpine-tour.com/japan/2018-04-catalog.pdf

山の天気を学ぶ机上講座のご案内

ヤマテン主催「山のお天気講座」(東京会場)

日程:9月8日(土)
初級編「初秋の天気入門」(10:30~12:00)
中級編「過去の気象遭難から学ぶ秋山の天気実践編」(13:30~15:30)
講師:渡部均(予定)
※会場やお申込み方法につきましては、後日発表いたします。

今年度の10月以降の講座及び、大阪、名古屋の講習会の予定は下記URLでご確認ください。
http://yamatenki.co.jp/course.php

参加費は、一般の方は3,000円ですが、ヤマテン会員の方は2,000円となります(基礎編、中級編両方をお申込みの方は一般の方5,500円、ヤマテン会員の方は3,500円と、500円割引になります)。なお、会員割引は、開催当日に会員になっていただいてる方が対象となります。

※ヤマテンポイントについて

ヤマテンの気象予報士が講師を務める講習会にご参加いただいた皆様にポイントを進呈させていただきます。
机上講座は1回参加につき1ポイント、空見ハイキングなど山での実地講座については1日につき3ポイント(旅行会社企画・実施のものも含みます)を進呈させていただきます。
特定のポイントが溜りますと、素敵なプレゼントを贈呈させていただきます。
詳細につきましては、 http://yamatenki.co.jp/point.php でご確認ください。

雲を学べる絵葉書11枚入りセット(10ポイント溜まるとGET!)

2018年のヤマケイ登山教室 山岳気象講座の日程は下記の通りです。

東京会場(アルパインツアーサービス本社) 19時~21時
受講料:2,000円 ヤマテンポイント各1ずつ

第1回*  4月24日(火) ・・・終了しました
第2回 5月15日(火) ・・・終了しました
第3回 6月5日(火) ・・・終了しました
第4回 7月17日(火) 落雷と短時間強雨~夏山のリスクを避けるために~
第5回 8月21日(火) 台風のリスクを予想する
第6回 9月18日(火) 秋山の気象~低体温症から身を守るための知識~
第7回 10月16日(火) 観天望気~雲から学ぶ天気の基本~

お申込み、お問い合わせはアルパインツアーサービス株式会社へ。
http://www.alpine-tour.com/japan/_j_office.html
http://www.alpine-tour.com/japan/

猪熊隆之(いのくまたかゆき)

国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテン http://yamatenki.co.jp/ の代表取締役。中央大学山岳部監督。国立登山研修所専門調査委員及び講師。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。チョムカンリ登頂(チベット)、エベレスト西稜(7,700m付近まで)、剣岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀歴がある。著書に山の天気にだまされるな(山と渓谷社)、山岳気象予報士で恩返し(三五館)、山岳気象大全(山と溪谷社)。共著に山の天気リスクマネジメント(山と渓谷社)、安全登山の基礎知識(スキージャーナル)。

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