日本3百名山ひと筆書き~Great Traverse3~|(19)高塚山~光岳

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丁寧な登山

7月2日、週間天気予報では傘マークがならび、唯一の曇マークが今日です。熊伏山を登ってから10日が経過、大幅な迂回と停滞が続き、これ以上スケジュールを遅らせたくないという焦りが自然と募ります。当初のルートを変更して、川根本町下長尾から日帰りで178座目高塚山へと向かいました。林道が途中土砂崩れで通行止めとなっているため、大札山経由で蕎麦粒山~高塚山を往復するルートとなります。梅雨らしい雲行きでいつ降ってきてもおかしくない空模様の下、案の定ポツポツと降ってきました。進む先の山が見えた時に、その姿や雰囲気からハッとしました。「こういう登山をしたくて3度目の旅を自分は始めたのか…」。昨日地元の山岳ガイドさんから、「深南部を感じられるのは、蕎麦粒山から黒法師山への縦走路」と聞いたのを思い出しました。当初は、高塚山と黒法師山は1泊2日で縦走計画を立てていましたが、天候を理由にあきらめてしまうのか…もう少し待ってもいいのではと思いました。しかし、初めての深南部を味わうこともなく帰ってきてしまう気がして、引き返そうと決断しました。「丁寧な登山」をしようと大札山へと登り返しました。

高塚山

7月24日、25日間の川根本町での停滞から、ようやく高塚山へと向かう日が来ました。まだ梅雨明け宣言はないですが、週間天気予報に晴れマークがズラリと並んだことで、高塚山と黒法師岳の深南部へ縦走できると判断しました。あとは天気予報通りに1日が過ぎ、見切り発車だったと後悔しないことを願うまで。3週間前に引き返してきた大札山へ。この日の宿泊地、山犬段の休憩舎に予定通りの時間に到着。必要の無い荷物を少し休憩舎に残し、蕎麦粒山へと登りました。ブナやダケカンバなどの大木が溢れた原生林が続き、登山道の両脇にはシロヤシオの木が続いています。5月に来ていたら、きっとスゴい森が広がっていたのだろうと容易に想像ができるほど。そして、三ツ合山からは、背丈の低いササ原が続き、徐々に深南部の奥へと入っていくようです。三ツ合から分岐し、比較的緩やかなアップダウンを繰り返した先に高塚山が。山犬段から2時間ほどで、高塚山山頂に到着。深南部縦走の一番の楽しみは「深南部らしい世界」が広がるという黒法師岳までの縦走路です。翌日を楽しみにして、山犬段の休憩舎へと来た道を引き返しました。

7月25日、深南部縦走2日目は、午前3時半真っ暗闇の星空の下を出発。午後3時頃から雨予報のため、それまでに寸叉峡に無事下山する必要があります。昨日歩いた三ツ合山までの道のりをせっせと歩きます。千石平へと向かう途中で太陽が顔を出し、朝霧を照らして一時だけ神秘的な世界が広がりました。房小山から先の登山道は地図にはなく、獣道はたくさんあり、主に鹿の生活道のようです。笹原になると寝ていた鹿が歩く音に気付いて飛び起きました。初日は久しぶりの登山に疲労を感じましたが、2日目は徐々にリズムが戻りいいペースを保ちます。木々の間隔が素晴らしく、足元には笹原が広がり、うっとりするような森が続いていきます。黒法師岳が近づくにつれて、深南部とは人の手が届かない、深く奥へと入り込んでいく世界だと感じていました。バラ谷の頭まで来ると夏空が広がり、三角椎の黒法師岳が。急な笹の斜面を何度か足を滑らせながら下り、凄く急な黒法師岳へと登り返しました。最後は獣道を頼り、笹藪を回避して、この日の最高峰179座目「黒法師岳」に10時に登頂しました。午後3時、深く奥へと入り込んだ深南部から人里へと無事に下山しました。

山伏

7月30日、今日これから初めて登る山伏は三百名山。前日に標高1500メートルまで登っているため、スタートから涼しいです。朝靄の県民の森から、美しい森が続くと聞く緩やかな尾根道を歩きます。苔むした落葉松林から徐々に標高が上がると、常緑針葉樹やダケカンバ、ブナ、カエデなどの様々な種類の木々が迎えてくれます。山伏までの中間点となる笹山からは霞む空に富士山が。峠に一度下りたあと、この日一番の美しい大木が続く森となりました。1800メートルを超えると、ダケカンバや美しい原っぱの中、少しずつ斜度を上げ山頂の2000メートルへと近づいていきます。山頂の手前で、シカ避けのネットに囲まれた、7月から8月に咲くヤナギランが。7月の長梅雨が影響したためか満開とは行かず、まだ蕾が多く咲き始めといった感じです。そして、山頂へ。山頂からはこれから向かう南アルプス南部の主峰がズラリと並んで見えました。5時半に出発したため山頂には9時半に到着、標高2000メートルを超えていますが夏の暑さは容赦ないです。午後からの雷雨に備え10時過ぎに下山し、再び井川湖の畔、田代へと駆け降りました。

大無間山

7月31日、予定していた当初のルートは通行止めため断念。赤石温泉白樺荘から2キロほど下った明神橋のたもとより、送電線の管理道入り口から尾根へと取りつき、小無間山へ危険箇所を通ることなく登ることができるそう。尾根上は藪ではなく、比較的見通しもきくようです。暗い時間から田代を出発し、6時半前に登山口となる明神橋に到着。序盤から首が痛くなるような標高差約500メートルの斜面を、送電線の管理道に沿ってがむしゃらに登りました。コースタイムの半分以下で尾根の上部へ到着。尾根は予想よりも状況は良く、登っていくにつれて、いい緊張感へと落ち着きました。順調に標高を稼ぎ、自分でも驚きのコースタイムの半分で、小無間山に到着。比較的歩きやすい道のりでしたが、体力はかなり必要です。小無間山から大無間山までは、前回と同じルート、アップダウンを繰り返しながら、11時過ぎに山頂に到着。休憩をしていると、頭上にはどんどん雲がわいてきました。のんびりしている場合ではないと、再び来た道を引き返しました。下山は雷雲との競争、安心できる場所まで急ぎました。最後は水も切れ、ヘロヘロになりながら、明神橋へと帰ってきました。

笊ヶ岳

8月2日、南アルプス南部の難山「笊ヶ岳」へ、椹島ロッジから往復コースで登ります。1500メートルを越え、コースタイムは13時間30分。さらに2000メートルを過ぎると、滑りやすく足場の悪いトラバースが続きます。いくつもの沢と尾根の登り下りを繰り返しながら、笊ヶ岳のある稜線へと近づきます。ちょうど1年前の今日、蓬莱山で骨折をしました。意識しないようにしていましたが、無理でした。いつも以上に慎重になり、集中することしました。南アルプスが一年で一番賑わう8月だから笊ヶ岳へと向かう登山者もいるかと思いましたが、この日はなんと!自分を入れて3組だけ。さらに驚いたのが、皆三百名山全山踏破を目的に登って来ていました。ヘルメットを装着し、無事にトラバース区間を抜け、朝露に濡れながら稜線へと出ました。稜線は季節外れのシャクナゲが満開となり、白く小さなゴゼンタチバナソウが迎えてくれました。出発から約4時間で4年ぶりに登頂。山頂から、明日から縦走する南アルプスの明峰がズラリと並んで見える予定でしたが、すでに雲が湧き3000メートル級の山々は隠れてしまっています。椹島ロッジのレストランが終わる前に、無事に下山を終えることができました。

東岳(悪沢岳)

8月3日、椹島ロッジから南アルプス南部主稜線縦走は3泊4日のスケジュール。初日は椹島から千枚尾根を登り、千枚小屋を経由して、千枚岳~丸山~荒川三山と縦走し、荒川のお花畑を抜けて、荒川小屋までです。千枚尾根から悪沢岳までは初めてのルート。樹林が続く長い尾根歩き、所々に展望があり、赤石山脈の雲の状況も確認することができました。千枚小屋には出発から3時間40分で到着。千枚小屋から先は、登山道脇のたくさんの高山植物が咲き乱れる中、千枚岳を目指しました。 千枚岳に初登頂、そこからは見える3000メートルを超える丸山と悪沢岳は、雲に隠れることなく穏やかに見えました。10時過ぎに荒川三山の最高峰東岳(悪沢岳)に登頂。山頂は雲に包まれて、中岳、前岳は見えませんでした。視界があまりきかない状況で中岳へ。前岳の西側が激しく崩落しているのを気に留めつつ、分岐へ戻り、荒川小屋へ続く道へと入りました。しばらく下りると、この日一番のお花畑へ。ネットで保護されたお花畑は満開でした。30分ほど下り、1日目の宿泊先荒川小屋に12時半到着しました。心配していた雷雨はなく、夕暮れに富士山が顔を出して1日目が終了。

赤石岳、聖岳(前聖岳)

8月4日、2日目は満点の星空の下、荒川小屋を出発。ヘッドライトの灯りを頼りに、赤石岳方面に登ります。荒川小屋から1時間ほどで、小赤石岳の肩に到着。美しい富士山のシルエットが目の前に姿を現しました。感動の瞬間です。小赤石岳を通過して、5時半過ぎに赤石岳に到着。赤石岳避難小屋へと立ち寄り、小屋のご主人と女将さんへご挨拶に。1時間ほどの和やかな一時となりました。そして2座目の聖岳へと向かいます。凍てついた雪渓の斜面を横目で見やりながら、眼下には気持ちいい百間平が見えます。百間平をルンルン気分で駆け抜け、百間洞山の家に立ち寄りました。ランチにはちょっと早いですがメニューにカツ丼とあり、頼めるかたずねると、今は時間にゆとりがあるので作っていただけることに。ボリュームも良く、外はサクサク、肉は塩麹に浸けてあるためとても柔らかいです。山ではちょうどいい味付けで大満足です。日本百高山の一つ大沢岳に登り、中盛丸山へ。100~150メートルほどのアップダウンがその先も小兎岳、兎岳と続きます。最後は400メートルの登り返しに、ヘロヘロになりながらも、なんとかカツ丼パワーで聖岳に登頂することができました。

上河内岳、茶臼岳

8月5日、疲れが溜まり始める3日目の朝は、山小屋利用者のイビキのためよく眠れず、寝不足で幕をあけました。登り初めて、1時間半ほどで、この日1座目の上河内岳に登頂。気持ちを落ち着けるべく山を眺めました。標高が下がるとともに、少しずつ、様子が変わる雰囲気を感じながら、茶臼小屋へと下りていきます。4年前にもお世話になった茶臼小屋でチャーハンを頂きながら当時の思い出を小屋の方々と話をしているうちに、元気と笑顔が戻ってきました。茶臼小屋から稜線まで登り返し、後半は人が変わったように光岳小屋へと縦走を続けました。187座目の茶臼岳からは、雄大な3000メートル峰の世界がのぞめました。シラビソの森を抜けて、小屋直前の水場で火照った体を冷やし、水を5リッター補給して、14時に気持ち良く光岳小屋へと到着。少し休んでから、イザルヶ岳からの展望を楽しみました。

光岳、池口岳

8月6日、南アルプス南部縦走最終日は見事な朝焼けです。今年限りで山を下りるという光岳小屋のご主人たちに、お世話になったお礼を伝えて温かく見送られ出発。光岳小屋の管理を続けて40年以上というご主人は、「今は昔のやり方では山小屋を利用する登山者に受け入れられなくなってきている。今の若い人たちに引き継いでもらい、新しいやり方で山小屋を管理していかなくてはいけないと思う」と少し寂しそうに、でも決心がついたように力強く語ってくれました。三度目の光岳に登頂後に、山名の由来となった光石に立ち寄ったあと、踏みあとが不明瞭なルートをたどり、南アルプス南部最後の池口岳に10時過ぎに登頂。前回は登らなかった南峰へは、空荷で北峰より往復しました。大きなトラブルや天候が崩れることもなく、順調に全てを登り終えることができて、出来すぎくらいでした。こんなにもゆっくり南アルプスを噛み締めて歩いたことは初めてだったでしょう。それだけに、下山し南アルプス南部を去ることに寂しさも感じていました。池口岳からの下山は、全てを登り終えた達成と疲れから、最後はヘロヘロに。一ヶ月半ぶりに飯田市南信濃和田へとたどり着き、久しぶりの麓の暑さにビックリしました。

 

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