年末年始の山に向かわれる皆様へ

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年末年始の休暇も目前となりました。例年であれば憧れの雪山への夢をふくらませたり、お住まいの近くの山から眺める初日を思い描いたりと、皆さんそれぞれのプランの練り込みや、装備、食糧の準備などに忙しい時期かと思います。
しかし、残念ながら今回は、感染が収まらないなかで過ごさざるを得ない状況となってしまいました。そこで、登山にお出かけの際に、ぜひ気をつけてもらいたい点、こういう時だからこそ、知識を深めておきたいことなどをお伝えします。

私は以前、山岳・自然系の出版社で登山に関わる調査研究などの仕事にも携わり、現在は日本山岳救助機構におります久保田賢次と申します。この9月には本メールマガジンを通じて「山岳地域を訪れる方々の背景を理解するためのアンケート」をお願いしましたが、たくさんの皆様がお力添えくださいましたこと、本当に感謝しております。詳細につきましては現在、分析を進めている最中ですが、そこから私が感じることができた、今、登山に親しんでいらっしゃる皆様のご様子なども想像しながら、年末年始の登山でご注意いただきたいことなどを綴ります。

いつもとは違う年末年始。だからこそ、より「確実な登山」を

このお正月は、さまざまな状況が例年と異なります。感染の拡大傾向はもちろんですが、各地から大雪による被害の情報なども聞こえて来ます。そんな年だからこそ、私たち登山者が、事故や遭難などで救助隊や医療関係の方々に負担をかけることがないよう、確実な登山を実践しなければならないという思いを強く抱きます。
「確実登山」という言葉は「安全登山」に較べてあまり耳慣れないと思います。私自身も雪山などリスク要因の多い状況下では、安全という言葉は、あまりしっくり来ないと感じる時がありました。困難を克服して目標を追い求めることも、登山の喜びのひとつであることを考えると確かにそんな気もします。
そのようなことを想いながら、ある本を読んでいた時、次のような一節に出会ったのです。それは松田宏也さんが著された『ミニヤコンカ奇跡の生還』に出てくる言葉でした。「山へ持っていける戦略は安全ではなく、確実で組み立てられたものでなくてはならない」。この言葉に私はとても感銘を受けました。「そうか、確実な登山を意識することが、結果として安全につながるものだったんだ」。
山行の立案から計画や準備、現場での一歩一歩の着実な行動。そして無事に帰宅するまで、正確さや確実さを意識して行うことが重要だったのです。特に冬山ではそうですよね。例えば雪山の寒気のなかで、手袋をはずしてアイゼンなどの金属に触れただけでも凍傷のリスクがあります。アプローチで汗をかいてしまって、稜線で烈風に吹かれたりすれば、低体温症などの危険も出て来ます。
もし、必要な装備を忘れてしまったらどうでしょう。夏の穏やかな季節ならば、なんとか他の手段でカバーできそうなことも、厳しい冬山では致命的なことにつながりかねません。近郊の低山であっても、凍結したアプローチの林道でうっかり足を滑らせて、骨折してしまうこともあり得ます。登山に100%の安全はないかも知れません。しかし、この年末年始は「100%確実な登山」を実践したい、して欲しいと思うのです。

せっかく発信されている「冬山情報」。役立てていらっしゃいますか

警察庁が毎年、冬山シーズンを前に全国の都道府県警察から寄せられる情報や冬季の登山の留意点をとりまとめて、ホームページで発表していることをご存知でしたか。そこには日本じゅうの主な山域の気象や登山道などに関する情報が掲載されています。北海道から始まり八甲田山系、八幡平、鳥海山系などと順に続き、関東近辺では丹沢山系や奥秩父山系が、西は石鎚山系、霧島山系、開聞岳、屋久島山系まで、地域別に約30山系(山)に渡って管轄警察のリンクに飛べるようになっています。
個々の山々の情報も具体的に掲載されています。北は利尻山から南は宮之浦岳まで、なんと131区分、160山以上について詳述されているのです。日頃から地域の山々で安全確保のために活動してくださっている警察の方々がまとめたものですので、各地の山々の状況や特徴などを知るうえでも、とても勉強になります。
例えば、首都圏にお住まいの皆さんに馴染みの深い丹沢山系を例に見てみますと、このような概要が記されています。「丹沢の冬は、西高東低の気圧配置になると晴れの日が多くなりますが、風が冷たく気温が下がり、朝晩は氷点下10度以下に冷え込むこともあります。十分な防寒対策をしてください」、 「12月になると数回の降雪があり、1月から3月上旬にかけて多い年には1㍍以上の積雪になることがあります。特に南岸低気圧の通過時には、平地は雨でも山では大雪となることがあるので注意してください」といった気象的な特性が説かれ、「登山道は12月から3月にかけ朝晩の冷え込みで霜に覆われ、日中の日差しで霜が解けてぬかるみになり滑りやすくなります。北側斜面や日陰は、凍結して滑りやすくなっていますので注意してください。登山には軽アイゼンが必要です」などと、登山道の状況や必携装備まで、ていねいに語られているのです。
昨今の状況から「もうしばらく登山は控えておこう」と考えていらっしゃる方々にも、比較的時間のとりやすいこの時期に、こうしたサイトをじっくりご覧いただき、各地の山々の状況を知識として把握しておくことや、今後、出かけてみたい山々への思いを募らせ、心の準備をしておかれるのもおすすめです。

●山岳遭難・水難 警察庁Webサイト 令和二年冬山情報
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/chiiki/02huyuyama.pdf

具体的に注意したいことは? 長野県警の呼びかけ例をもとに

それでは次に、長野県警発信の冬山情報をもとに、より具体的な注意点について考えてみましょう。本格的な雪山登山のフィールドが多い地域ですので、その方面からの注意事項が中心になりますが、まずは「遭難は他人事ではありません! 周到な計画と体調管理を」という呼びかけから始まります。
次に積雪の影響を受ける冬山では、夏山の倍以上の行動時間が必要になること、いったん天候が悪くなると、数日間吹雪が続き行動不能となってしまう場合もあること、予備日を設ける必要性などが語られています。
「余裕ある日程と自分の体力・技術・経験に応じたコース選定や、携行する装備などを十分検討して計画を立てる」といったプランニングの重要性も説かれ、さらに「新型コロナウイルス感染防止のための事前の体調管理を万全にすること」も記されています。
気温の上昇や積雪によっては雪崩が発生しやすくなること、雪崩ビーコンの携行や、積雪、降雪の状況や気温変化にも注意して、登山ルートやテントの設営場所を慎重に選定するといった地域特有の注意点にも触れ、特にバックカントリースキーやスノーボードをする人への慎重な判断が呼びかけられています。
「単独登山のリスク」についても記されています。前述のアンケート結果からも、日頃から単独で山にお出かけの方々の多さに、私自身も改めて驚きましたが、アクシデントによって自ら救助要請や通報ができなくなってしまうような「最悪のケース」に陥ってしまう可能性もあるとのことです。
最後に「正しい技術を身につけてからの入山」が促されています。長野県の山々での遭難の原因で、最も多いのが転倒・滑落なのですが、ピッケルやアイゼン等の装備の正しい使い方、雪上の歩き方、滑落停止等の技術を身につけてから入山することや、「自分の力量を見極めての慎重な判断」、「登山計画のご家族や友人等との共有」も、大切なこととして呼びかけられています。

令和二年冬山情報/長野県警察
https://www.pref.nagano.lg.jp/police/sangaku/fuyuyama.html

事故を「自分ごと」として考え、周囲の方々への思いやりも大切にしたい

以上、日頃から遭難対策や救助に当たってくださっている方々の声を中心に引用させていただきましたが、最後に私自身が、この年末年始は心がけておこうと思っていることや、皆さんにも意識していただきたい点を記します。

・自分自身の今の力で充分に達成できるレベルの「背伸びをしない登山」を

医療の逼迫も叫ばれています。私たち登山者が負担をかけることは極力避けたいものです。グレードアップの目標を掲げ、力量以上の計画を立てられる方もいらっしゃいますが、この年末年始は決して無理をせず、自身の力も考慮して、例え条件が悪化したとしても充分に対処可能なレベルでの、無理のない登山をしていこう、していただきたいと感じています。
未知の山ではなく、いつも通いなれた山でもいいと思います。ゆったりした計画で、のんびりと着実に楽しむことではいかがでしょうか。人に自慢できる登山でなくてもいいのです。例え頂上を目前にしても、あるいは登り出す前であったとしても、なにかしらの不安や心配、体調の不良などを感じたら、すぐに諦めて引き返してもかまいません。今回はそんなレベルの「背伸びをしない登山」を心がけてみませんか。

・こんな時だからこそ「思いやりの登山」を実践したい

例えば、年末年始に営業されている山小屋の方々も、感染対策や私たちの利用のために万全を期してくれています。予約のルールや宿泊マナーなどにも充分に気をつけて、日頃から山を守り、登山道を維持し、私たちが山に親しむために便宜を図ってくださっている方々への感謝の念を抱きつつの「思いやりの登山」を、ぜひ心がけたいものです。
アプローチの交通機関を維持する方々や、地域で暮らす人たちも含めて、登山は私たちだけで完結できるものではなく、直接的、間接的に沢山の人たちのお世話になった結果として楽しめるものでもあります。「正月の朝、さあ家族そろって炬燵でお雑煮と思った時に、通報が入って出動となるんですよ…」。長く遭難救助に携わって来られた方から、以前お聞きしたこんな話を思い出しました。

・体調や備えは万全だろうか? もう一度、問いかけてみてください

私自身もそうですが、この春からは、遠出を控えて登山らしい登山をほとんどして来ませんでした。山に向かう気持ちや体力だけは失わないようにと、日頃からランニングなどのトレーニングは欠かしませんでしたが、やはり「山ヂカラ」は、継続して山に出かけてこそ培われるものだと思います。
その意味では、これから迎える冬山シーズンへの備えには自信がありません。以前は雪山登山といえば、夏場や秋頃からルートの下見やトレーニングを行ない、入念な準備と計画、そして山行当日の気象条件に恵まれ、メンバーの足並みもそろって、やっと神々しい雪の高嶺に立つことができるというものでした。
この一年は山行日数も減ってしまった方がほとんどだと思います。「今、出かけようとしている山のレベルや気象条件に対して、果たして心と体の備えは充分だろうか」、「家族や周囲の方々に心配をかけることはないだろうか」。私ももう一度、自分に問いかけてみようと考えているところです。

久保田賢次(日本山岳救助機構研究主幹、元ヤマケイ登山総合研究所所長)

 

雪山はコンディション次第で難易度も大きく変わる(谷川連峰、白毛門)

視界が閉ざされるとルートファインディングも難しくなる(谷川岳)

どうか無理のない登山を心がけてください(南アルプス、鳳凰三山)

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