雲から山の天気を学ぼう(第63回)

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~きり雲が教えてくれた空気の“気持ち”~

今日(2021年9月19日)は、蓼科でも気持ちの良い秋晴れになりました。八ヶ岳の山麓には雲がたなびいており(写真1)、この雲が空気の状態(以下、“気持ち”)を教えてくれました。その“気持ち”を皆様にお伝えします。

写真1 八ヶ岳山麓にたなびく雲

まず、写真1に写っている雲は、層雲(そううん、別名きり雲)と呼ばれる雲です。積雲(せきうん、別名わた雲)とともに、雲の中でもっとも低い位置に現れる雲です。この雲が出現した理由について、天気図から考えてみましょう。

図1 9月19日午前6時の天気図(赤い△印は八ヶ岳の位置) 図:気象庁ホームページより
上図は、今朝の天気図です。シベリア東部と沿海州に高気圧があり、北海道の南東海上と関東沖に低気圧があります。その間にあたる八ヶ岳付近では、等圧線の間隔がやや狭く、高気圧から吹き出す北寄りの風が吹いています。ここで、もう一度、写真1を見てみましょう。写真の左手が北西方向、右手が南東方向になります。天気図から北寄りの風が吹くはずですので、左手から右手に風が吹いていると考えられます。しかしながら、雲は左手の方が薄く、右手の方が厚くなっています。これはおかしいですよね?なぜなら湿った空気が入ってこないと雲はできない訳で、左手(北西)側から風が吹いているのなら、左手の方から湿った空気が入るので雲が厚くなるはずだからです。実際、写真2ではそのようになっています。写真2は、写真1の左側にあたり、おむすび型の山が蓼科山です。その手前側に左手(北西)から厚みのある雲が流れていますが、右手(南東)にいくにつれて雲は消えています。雲のもっとも厚みのある所にスズラン峠や大門峠があります。これらの峠の北側から湿った空気が入ってきて、それが峠を越えると下降して温められることと、南側の乾いた空気に接することで、雲は蒸発して消えているのです。

写真2 写真1の左側、蓼科山方面を撮影した写真

写真3 写真1に空気の“気持ち”を書き加えた写真

もうひとつの特徴は、雲のてっぺんがほぼ水平であることです。このように、雲頂が平らになっているときは、そこに安定層、あるいは逆転層があります。通常、地上から上空に行くにつれて気温は下がっていきますが、逆転層はそれとは逆に、下の方に冷たい空気があり、上の方に温かい空気がある層のことで、安定層は上下であまり温度差がない層のことを言います。
このように安定層(逆転層)ができると、この層が蓋のような役割を果たし、雲は蓋に押さえられてそれ以上に行くことができず、蓋に沿って進むので平らになります。また、今朝は、前夜に雨が降ったために、地面に浸み込んだ水分が蒸発し、空気中に水蒸気が溜まっていました。その湿った空気は、安定層ができると、その中に閉じ込められるので逃げ場がなく、それが夜間の冷え込みで冷やされて雲ができます。秋から冬の朝に盆地などで霧が発生するのはこの原理によります。この雲は安定層の下にできるので、安定層より上に行けば雲海が見られます。

さて、写真1と3で、雲の左側の方が薄く、右側が厚くなっている理由を考えてみましょう。その答えは地図を見ることで分かります。

図2 撮影ポイントから八ヶ岳周辺の地図(google マップより)

図2を見ていただくと、撮影ポイントは八ヶ岳の西側です。八ヶ岳から北西、西へと車山~美ヶ原といった山並みがあるために、北風は八ヶ岳の西側にある大門峠、スズラン峠といった低い場所を越えてきます。それが八ヶ岳の西側を北から南へと吹き抜けていきます。もうひとつは千曲川に沿って北北東から南南西へ風が吹き抜けていきます。この風は八ヶ岳を越えると二手に分かれ、ひとつは甲府盆地の方へ吹き降りていきますが、もうひとつは八ヶ岳を南から回り込むように北西方向へ吹いていきます。東側から回り込む空気の方が温度が低いと、西側を吹いてくる北西風の下に潜り込み、逆の場合は北西側から吹いてくる風が東側から回り込む空気の下に潜り込みます。
今回は、雲の上端の動きを見ると、北西から南東に流れているので、前者の東側から回り込む空気が潜り込んでいるパターンです。ここでもう一度、天気図を見ると、沿海州から日本海に張り出す高気圧は、大陸育ちの乾いた空気を持つ高気圧です。従って、ここから吹き出す北西風は乾いており、中部山岳の北、西半分は乾いた空気に覆われています。一方、関東地方など高気圧の縁にあたる地域はやや湿った空気が残っており、八ヶ岳を挟んで西側の空気は乾いていて、東側の空気の方が湿っています。そのため、東側から回り込んだ空気は、西側より湿っており、水蒸気を多く含んでいるため、雲が厚みを増しているものと思われます。
大門峠やスズラン峠を越えて一旦蒸発した雲が、八ヶ岳の山麓を南東に進むにつれて標高が高くなるので、上昇させられて冷やされ、さらに東からの湿った空気の供給を受けて雲が厚みを増している、ということになります。ひとつの雲でも、こうして空気の色々な情報を知ることができるのです!皆さんには、今朝の八ヶ岳における空気の“気持ち”をご理解いただけましたか?
次回もお楽しみに!

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

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猪熊隆之(いのくまたかゆき)

国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテン http://yamatenki.co.jp/ の代表取締役。中央大学山岳部監督。国立登山研修所専門調査委員及び講師。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。チョムカンリ登頂(チベット)、エベレスト西稜(7,700m付近まで)、剣岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀歴がある。著書に山の天気にだまされるな(山と渓谷社)、山岳気象予報士で恩返し(三五館)、山岳気象大全(山と溪谷社)。共著に山の天気リスクマネジメント(山と渓谷社)、安全登山の基礎知識(スキージャーナル)。

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