雲から山の天気を学ぼう(第56回)

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~八ヶ岳にかかる雲から、中部山岳の天気を予想~

冬によく現れる冬型の気圧配置。モンゴルやシベリア方面に高気圧、千島列島やオホーツク海、三陸沖に低気圧という“西高北低型”の気圧配置で、天気図上では等圧線が縦縞模様になっている形です。
冬型の気圧配置になると、「日本海側では雪や雨、太平洋側では晴れ」といった天気となりますが(実際にはそんなに単純ではない)、真ん中にある八ヶ岳はどのような天気になるでしょうか?多くの登山者にとって八ヶ岳の天気はイメージが掴みにくいと思います。

そのようなとき、取りあえず出発してみて八ヶ岳にかかる雲を見て判断するのもひとつの方法です。どんなに天気が荒れていても赤岳鉱泉や行者小屋、黒百合ヒュッテまでは、風がそれほど強まらず、歩くことができます。山に入ってみて、山にかかる雲の変化から翌日の行動を決めてもいいでしょう。
また、雪がシンシンと降る八ヶ岳もメルヘンチックです。

八ヶ岳は内陸にあるため、日本海からの湿った空気が入りやすい北アルプスに比べれば天気が良いのですが、山麓は晴れていても山の上には雲が張り付いていくことが多く、稜線では強風と低温で意外と厳しい気象条件になります。
登山前に天気図を見ることで稜線の強風や悪天を予想することができますが、山麓から見上げたときに、山にかかっている雲によって、どの位天気が荒れているかを想定することができます。また、八ヶ岳にかかる雲が北アルプス、南アルプスなど周辺の山の天気を予想するのにも役立ちます。

写真1 平均的な冬型のときに見られる雲

冬型の気圧配置のとき、長野県の天気予報は、長野市など県の北部で表示されることが多く、雪マークになることが多くなりますが、八ヶ岳山麓では関東地方や山梨県など太平洋側の天気に近く、晴れることが多いです。しかしながら、山麓は晴れていても八ヶ岳には写真1のように、ベッタリと雲が張り付くことが多くなります。このようなとき、山の上では霧に覆われて視界が悪くなります。また、弱い降雪が見られることもあり、稜線では強風が吹いています。森林限界より上部では慎重な行動が求められます。
このようなとき、南アルプスでは晴れることが多くなりますが(写真2)、北アルプスでは吹雪になることが多いです。

写真2 南アルプスでは晴れることが多いが、稜線では強風が吹き荒れている

写真3 冬型が強いときの雲

冬型が強くなると、山麓でも雲が多くなり、雲底(雲の底)の高度と雲頂(雲の上端)の高度の差(写真1、2の白い矢印の幅)が大きくなります。つまり、雲が厚くなるということです。そうなると、太陽の光が通らなくなり、雲の底は暗い色に変わってきます。雲が厚みを増すと山全体を覆い、雲の下に降雪が見られるようになります(緑色のカコミのもやっとした部分)。このような雲の特徴が見られるとき、山の上は吹雪となっています。見通しが悪く、低体温症のリスクもありますので、森林限界より上部の行動は控えた方が良いでしょう。
このようなとき、南アルプスでも稜線では雲に覆われることが多く、ふぶくこともあります(写真5)。北アルプスでは猛吹雪となっており、大雪になることもあります。

写真4 上層に強い寒気が入っているときの雲

上層に寒気が入ってくると、大気が不安定になり、雲がやる気を出して上の写真のように、もくもくと上方へ発達していきます。夏の入道雲と同じですね。このような雲に山が覆われているときは、雪が強まり、突風や落雷の恐れもあります。冬型が強まっているときに、このような雲が見られるときは、山の上では暴風雪の大荒れの天気になります。もっとも注意が必要な雲です。

写真5 甲斐駒、鳳凰三山付近の雲

東京方面から「特急あずさ」に乗車して茅野、松本方面に向かうと、韮崎を過ぎる頃から車窓の左手に鳳凰三山~甲斐駒の山並みが見えてきます。上の写真のように山が雲に覆われているようなときは、南アルプスの稜線でも吹雪いています。冬型のときには普通、八ヶ岳より南アルプスの方が天気は良くなりますから、このようなときは八ヶ岳では暴風雪の大荒れの天気になっていると思った方が良いです。そのため、北八ヶ岳の樹林帯のコースや、入笠山など山頂は開けていてもすぐに樹林帯に下りられるような、風の影響を受けにくいコースに変更した方が良いでしょう。

写真6 冬型が弱いときの雲

冬型が弱まってくると、標高の低い茶臼山から高見石付近から雲が取れてきて、上の写真のように、雲は天狗岳~権現岳上空に広がるのみになってきます。やがて天狗岳や権現岳も雲が取れて阿弥陀岳が見えてくると、最後まで残っていた横岳~赤岳の雲が取れるのももう一息です。冬型が弱まってくれば、天気が回復していき、稜線の風も弱まっていきます。午前中に写真6のようになれば午後は全域で好天が期待できますし、午後に写真6のようになっていれば翌朝は好天が期待できます。
このようなとき、南アルプスでは快晴です。ただし、稜線では西寄りの風が強まることがあります。また、北アルプス南部でも常念山脈や上高地など信州(長野県)側の山麓から次第に天気は回復していきます。

このように雲を見ることで、山の上の天候の荒れ具合を想定することや、冬型の強さを推測することができます。空からのサインを読み取って、安全な登山を心がけてください。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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猪熊隆之(いのくまたかゆき)

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