雲から山の天気を学ぼう|(44)寒冷前線が接近するときの雲(東日本太平洋側の山岳)

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~寒冷前線が接近するときの雲(東日本太平洋側の山岳)~

さて、今回は寒冷前線が日本海側から太平洋側へ通過するときの雲の変化についてです。冬季は寒冷前線が中部山岳を通過する間に弱まって、関東地方や山梨県、静岡県東部の山岳では影響が少ないことがあります。

今回はその代表例として、富士山麓での空見ハイキング時の雲を紹介します。

この日は、寒冷前線が前夜から朝にかけて日本海側から太平洋側へと通過する予想となっていました。下の天気図を見ますと、9時には寒冷前線が南海上へと抜ける予想になっております。

図1 12月5日時点での6日9時の予想図(気象庁ホームページより)

ところが、9時の富士五湖付近では南西の風が吹いており、気温も高めでした。つまり、寒冷前線が通過する前の状況です。

さらに、中央高速を走っていると、西の空や北の空に寒冷前線に伴う雲が出ており、次第に接近する状況(写真1→写真2)だったことからも寒冷前線がまだ通過していないことを裏付けていました。

写真1 前方に寒冷前線に伴う雲が現れる。寒冷前線に伴う雲はもくもくとした塊状の雲が連なっている。

写真2 もくもくとした雲が接近中

このとこから、予想より寒冷前線の通過が遅れていると推測しました。

寒冷前線は温かい空気があった所に冷たい空気が入ってくるときにできる前線です。温かい空気が急激に持ち上げられるため、温暖前線のときに見られる層状のなめらかな雲ではなく、塊状の雲が発生します。前線の暖気側や通過時には積乱雲が発達し、落雷やひょうなどを伴って激しい雨が降ることがあります(寒冷前線については、第8回も併せてご参照ください)。

寒冷前線は、中部山岳を越える間に弱まっていきます。このため、暖気側(前線の進行方向)で南からの温かく湿った空気の入り込みが弱いと、関東地方や東海地方など太平洋側では寒冷前線の通過を明瞭に実感できないこともあります。冬季はこのタイプの寒冷前線が多くなりますが、今回もそれでした。

写真3 寒冷前線に伴う雲が南アルプスを越えて弱まる様子

上の写真3は竜ヶ岳からの南アルプスです。画面左が南、右が北の方向になります。これをご覧いただくと、南アルプスの後面にはもくもくとした、寒冷前線に伴う雲が横たわっています。特に標高の高い白峰三山のある右側の雲が発達しています(赤線のカコミ)。一方、南アルプスの手前側にある山(緑色のカコミ)には雲がかかっていません。これは山を越えて下降気流となり、雲が蒸発して弱まるためです。また、山の反対側から侵入する湿った空気が南アルプスによって遮断されてしまうためでもあります。

赤色のカコミは雲の下の方がベールのようになっていますが、尾流雲(びりゅううん)と呼ばれる雲で、雨や雪が降っていたり、大きく成長した雲粒が下降しながら蒸発しているときにできる雲です。また、山を越えて手前側に雲が下降しながら蒸発している様子も分かります。

私たちが登った竜ヶ岳は、南アルプスの風下側(東側)にあるので、天気の大きな崩れはなく、南アルプスを越えた空気が毛無山塊にぶつかって、再び上昇した空気が小さな雲を作る程度でした。こうした状況のとき、前線が通過したかどうかを判断する方法は、南アルプスや富士山など周囲の高い山岳にかかっている雲が増えていくのか、少なくなっていくのかどうかを見ます。

写真4 富士山にかかる雲

写真4を見ると、富士山に雲がかかっています。このときまでは雲がやや増えて大きくなっていく傾向でしたが、これ以降、雲は写真5、6のように次第に減っていきました。これは寒冷前線が抜けて、その後ろ側の乾いた空気が入ってきていることを表します。

写真5 富士山かかる雲が減っていき、高度も低くなっていく。

写真6 写真5の数十分後、富士山の雲はほぼなくなる。

このように、周囲の高い山岳にかかる雲の変化を見ることで、天気の変化を予想することができます。

ただし、これは南アルプスや奥秩父、富士山周辺の山、関東山地など中部山岳の風下側の山の場合です。日本海側や西日本の山岳では寒冷前線の接近、通過に伴って天候が急変し、雷を伴った激しい雨が降ることもあります。実際、この日も日本海側の山岳では大荒れでした。これらの山岳では寒冷前線が接近する前に安全地帯まで避難することが大切です。

天気図、アメダスは気象庁提供

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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猪熊隆之(いのくまたかゆき)

国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテン http://yamatenki.co.jp/ の代表取締役。中央大学山岳部監督。国立登山研修所専門調査委員及び講師。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。チョムカンリ登頂(チベット)、エベレスト西稜(7,700m付近まで)、剣岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀歴がある。著書に山の天気にだまされるな(山と渓谷社)、山岳気象予報士で恩返し(三五館)、山岳気象大全(山と溪谷社)。共著に山の天気リスクマネジメント(山と渓谷社)、安全登山の基礎知識(スキージャーナル)。

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