落雷、極地豪雨を予想しよう(上級編)後編(第41回)

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前編に続き、穂高連峰の岳沢(だけさわ)で行われたガイド協会更新研修時の天候判断についてです。後編では雲などを見て落雷や強雨などのリスクを察知し、早めの避難行動につなげていく方法についてお話しします。

朝、起きると青空が広がり、上高地の清々しい空気が優しく包んでくれました。梓川沿いに河童橋へと進んでいくと、明神側には霧が立ち込め、明神~前穂の稜線を越えて岳沢側に流れ込んでいきます。雲が生き物のように動いていく様は、幻想的でした。

写真1 早朝の上高地からの穂高連峰
その様子を見ていると、職業柄、「どうしてあの雲はあそこに浮かんでいるのだろう?」「どうしてあんな形をしているんだろう?」と考えてしまいます。
折角ですので、皆様も雲の世界にお付き合いください。

写真2 写真1の解説

はじめに、写真1の②付近の雲について解説します。

この写真の右方向が梓川の上流、明神方面で、左側が下流の大正池方面になります。写真には入っていませんが、右側の明神方面には濃密な層雲(そううん、別名きり雲)がありました。この雲は、前日の雨が蒸発して空気中に水蒸気が溜まったものが朝方の冷え込みで冷やされてできたものです。地図を見ると、上高地平は盆地状で水蒸気が溜まると、外に逃げていきにくい形状をしており、その中でも明神は、徳本峠側を越えて湿った空気が入りやすくなります(この日は東風が吹いていたので)。つまり、明神~徳沢辺りには他より濃密な雲ができやすい条件でした。その雲が明神岳~前穂高岳を越えて吹き降ろしたものが②の部分の雲です。

次に、①の雲についてです。これは岳沢付近の上空に浮かんでいます。岳沢はお椀のような形をしていて、冷気が溜まりやすい地形です(冷たい空気は重いので、お椀の底のような地形の岳沢に溜まりやすい)。前日の雨で水蒸気が溜まっていた空気の胃袋は、既にお腹パンパン状態です(水蒸気を含むことができる限界に近い)。夜間にこの空気が冷やされて空気の胃袋が小さくなっていきます(空気は冷たくなると、胃袋が小さくなります)。そこで、水蒸気を含みきれなくて吐き出したものが雲に変わっていきます(汚い話ですいません)。

こうやって色々考えていくと、雲の気持ちが分かって楽しいですね。
楽しくなってきた所で後ろを振り返ると、梓川の下流方面にも層雲が見られました。
次は、この雲について解説していきます。

写真3 梓川の下流方面にできた層雲

写真4 写真3の解説
この雲は、大正池方面から流れてきたものです。大正池は明神~徳沢同様、盆地状の地形をしていて水蒸気が溜まりやすい地形です。前日の雨で既に、お腹いっぱいに近い状態にあった空気が、大正池から蒸発した水蒸気の補給を受けてこれ以上含み切れなくなり、雲になります。こうして、大正池では雨上がりの早朝に霧が発生します。その霧は、太陽が昇ると、温められて空気の胃袋が大きくなるので蒸発していきます。蒸発すると、また空気中の水蒸気が増えます。風が吹くと、その水蒸気をたっぷり含んでお腹パンパンになった空気が斜面を上昇し、冷やされた結果できたのが写真3、4の雲です。そして、その雲がさらに上昇していくと、上方の乾いた空気に触れて蒸発して消えます。

朝の雲鑑賞はこの辺りで終わりにしましょう。これまでの写真から分かるように、この日は朝から良い天気で、絶好の登山日和に見えました。

しかしながら、歩き始めてすぐに気になる雲が現れます。写真5の雄大積雲(ゆうだいせきうん)、別名入道雲です。この時点で午前9時前。これが午前10時、11時の時間帯でしたら普通の状態ですが、8時、9時台までに現れたときは要注意です。

写真5 常念山脈方面に現れた雄大積雲(別名入道雲)
日中、陽射しによって地面付近が温められていくと、地面付近と上空との気温差が大きくなり、雲がやる気を出し始めます(雲のやる気については前編を参照)。そうすると、写真5のような入道雲が発生するのですが、まだ地面付近が十分に温まっていない朝のうちから、入道雲が発生するようなときは、上空に強い寒気が入っている証拠です。
昼頃になって地面付近が温められると、さらに雲はやる気を出して成長していきます。そうなると、怖い怖い落雷や強雨をもたらす積乱雲(せきらんうん)になっていくのです。

このように危ない兆候が見られる日は、絶えず、雲のやる気をチェックしていきましょう。雲を見るポイントは以下の通りです。

  1.  風上側の雲を見る(風が吹いてきている方向の雲を見る。雲が流れてきている方向の雲を見る)
  2. 風下側でも、その雲が10km以内にあり、その雲との間に高い山がなかったり、新た
  3. に入道雲が発生してきているようなときは要注意
  4. 1と2に該当する雲の底が暗くなってきたら、避難開始(下記写真6参照)
  5. 1と2に該当する雲の上部が頭巾のような形をしていたら、即避難開始

写真6 頭巾のような形をした頭巾雲(荒木健太郎氏撮影)

5.1と2に該当する雲の上部が透けて見える白い雲の場合は、即避難開始

写真7 雲の上部が透けている雲(巻雲、写真の緑色の破線部分)と目に見える降水(赤い破線部分)

6.雲の底から白いカーテンのような筋が見えたら、そこは雨が降っている証拠。その雨が近づいてきているようなら即、避難開始(写真7及び、写真11)

写真8 六百山の奥(東側)で雲底が暗くなった雲が出現
上高地から明神への遊歩道から分かれて岳沢の登山道に入ると、樹林帯になります。空を見渡すことができなくなりますので、登山口の所でチェックしましょう。振り返ると、六百山の東側に入道雲が見られます。雲の底がかなり暗くなってきて、雲を見るポイントの3に該当しますね。ただし、この時は、この雲と逆方向から風が吹いており、さらに雲と私たちの間には高い山があることから、すぐにこの雲が近づくことはないと判断して登山を続行しました。実際、この雲が山を乗り越えて、こちら側に来ることはありませんでした。

写真9 岳沢から南西側の空を見る
樹林帯を抜けると岳沢の本流の河原に出ます。ここで再び雲をチェック。特に、今日は天気図から南西風が吹くことが予想されていたので、南西側の空を確認します。幸い、岳沢では南西側の空が開けているので、雲をチェックするのに好都合です。この時点では南西側には特に発達した雲がありません。

もう少し雲を詳しく観察してみると、焼岳と、手前側の西穂高から上高地側に延びる尾根との間で雲がまとまっています。ここは新中尾峠という標高の低い場所で、飛騨(岐阜県)側からの水蒸気を多く含んだ空気が入りやすい場所です。

写真10 写真9の解説
一方で、逆の信州(長野県)側からは谷風が吹きあがっていきます。こちらは南東斜面で午前中、日射を強く受けますので、温まった空気が軽くなって上昇していきます。この信州側からの風と飛騨側からの風がぶつかり合って上昇気流を強め、雲がやる気を出していきます。ここでできた雲が南西風に流されると岳沢に直撃します。ですから、今回は特に、この付近で雲がやる気を出さないかどうか、確認をしていきます。

さて、南西側で雲が発達することなく、岳沢に到着することができました。また、雲を観察しているうち、上空では南西風ではなく、西風が卓越していることが分かりました。そのため、飛騨側から湿った空気が入るたびに、岳沢の西側にある西穂高岳付近の稜線で雲が成長し、稜線や飛騨側でにわか雨を降らしていましたが、穂高連峰を越えた雲は岳沢で下降し、雲が弱まっていきます。そのため、雨が時折パラつく程度で、岳沢上空では最後まで青空が残っていました。
休憩を取った後に下山開始。すると、空の様子が一変してきます。

写真11 南西側で見られた黒い雲と降水
写真9、10と同じ方向の写真ですが、雲の底が暗くなった部分(赤いカコミ部分)が現れ、また、雲からカーテンのような、もやっとした部分(青い破線のカコミ)が見られます。これは雨が降っていることを示しています。これが見られるとき、進行方向の上高地では間もなく激しい雨が降る可能性が高いです。岳沢では進行方向からズレているので雨がパラつくだけで済むかもしれませんが、この雲が発達すれば土砂降りになり、落雷のリスクも高まります。ということで、このような特徴が見られるときは即、避難開始です。

今回の講座で、地形が雲に与える影響が非常に強いことが分かりました。特に、谷は水蒸気の通り道になり、山風と谷風(詳細は98回 https://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/65ff7031ab34f28cac97b35fe03dff08 をご参照ください)がその水蒸気を運んでいきます。谷風同士がぶつかり合うとそこで上昇気流が発生し、大気が不安定な状態のとき、雲がやる気を出していきます。それが上空の風に流されていくのです。さらに、積乱雲が発達して激しい雨が降ると、その雨によって冷やされた空気と谷風がぶつかり合って新たな子雲が生まれることがあります。ご参考までに穂高連峰周辺で当日吹いた風を記した図を掲載しておきます。上空の風は気圧配置によって変わりますが、晴れた日の山風と谷風は通常、この図のように吹くことが多いので、雲ができやすい場所も分かります。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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山の天気を実地(山)で学ぶ講座のご案内

観天望気講座を書いている猪熊隆之や、ヤマテンの気象予報士が講師を務める「お天気講座」 を旅行会社などで実施しています。山は雲を観察したり、学んだりする最高のフィールドです。それは、平地から雲を見ると、どうしても下から見上げてしまうので、平面的にしか見えないのに対し、山では、立体的に雲を捉えられるほか、稜線や尾根上では斜面を昇ってくる上昇気流によってできる雲を体感でき、山を挟んだ両側における雲の出き方の違いも観察できます。また、観天望気だけではなく、登山前日の天気図から押さえておくべきポイントや、荒れた天気の日は、気象リスクを減らすために登山者がおこなうべきことを解説し、安全登山の方法について学びます。
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入笠山 空見ハイキング

10月中旬の入笠山は、澄み切った秋空が広がることが多く、カラマツの黄葉も山頂付近では見ごろを迎える季節です。また、八ヶ岳、北アルプス、中央ア、富士山、甲斐駒ヶ岳など中部山岳の大パノラマが広がり、山が気象に与える影響を学ぶのにふさわしい場所です。雲が語ってくれる天気の変化に耳を傾けながら楽しく歩きましょう。

日程:10月19日(土) 日帰り

講師:猪熊隆之

お申込み方法や内容、ご参加料金など詳細は、トラベギャラリーにお問い合わせください。お申込みやツアーの詳細については以下のURLでご確認ください。

https://www.dreamjourney.jp/dj_tvg/details?XCD=718684&CODE1=YD&CODE2=TY19&CODE3=003123&MEDIA=&BRANCH=HP&YEAR=2019&MONTH=10&HEAD=Z1

那須連峰縦走 空見ハイキング

那須は強風による事故が多い山岳。稜線を縦走することで、風を体感し、強風時の対策や、天気図や観天望気から風の強さや向きを予想して登山のリスクを減らしていくことを学びます。那須の紅葉や、三斗小屋温泉での宿泊も楽しみ。

日程:10月26日(土)~27日(日)

講師:渡部均(予定)

お申込み方法や内容、ご参加料金など詳細は、

アルパインツアーサービスにお問い合わせください。お申込みやツアーの詳細については以下のURLでご確認ください。
http://alpine-tour.com/japan/2019_04/061c.html

六甲山 空見ハイキング

日程:11月24日(日) 日帰り

講師:猪熊隆之

前日の11月23日(土)に机上講座もおこないます。
お申込み方法や内容、ご参加料金など詳細は、ケイランドにお問い合わせください。お申込みやツアーの詳細については以下のURLでご確認ください。

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2019年度ヤマテン主催「山のお天気講座」

東京会場
第4回 9月8日(日) 秋山の気象について学びます(初級、中級)
第5回 12月1日(日) 冬山の気象について学びます(初級、中級)
いずれも午前中に初級編、午後に中級編を予定しています。
皆様の安全登山のお役に立てれば、嬉しい限りです。
それぞれヤマテンポイント1(午前、午後両方ご参加の方は2)

2019年の日本の山カルチャークラブ
東京会場(アルパインツアーサービス本社) 19時~21時
受講料:3,000円 ヤマテンポイント各1
毎月1回120分(質疑応答含)

講師:渡部 均
山の天気の基本を、実際の山における実例から学びましょう。1回のみの参加でもOKですが、今年度は全ての受講が基礎編ですので、連続受講をお勧めします。前回の復習も必ず行います。

場所:アルパインツアーサービス本社 特設説明会場

4/24(水):山岳気象のキホンと春山の気象遭難・・・終了しました

5/29(水):高気圧と低気圧、前線・・・終了しました

6/19(水):梅雨期の気象の特徴とリスク・・・終了しました

7/10(水):夏山の気象~落雷と短時間強雨から身を守るための知識~・・・終了しました

8/21(水):台風の進路予想図の見方と登山上の注意・・・終了しました

9/25(水):気象遭難を防ぐための天気図の見方(秋山編)

10/23(水):衛星画像の利用法

11/20(水):観天望気入門

12/11(水):冬山のお天気入門

お申込み、お問い合わせはアルパインツアーサービス株式会社へ。
http://alpine-tour.com/japan/

ヤマテンポイントについて

ヤマテンの気象予報士が講師を務める講習会にご参加いただいた皆様にポイントを進呈させていただきます。
机上講座は1回参加につき1ポイント、空見ハイキングなど山での実地講座については1日につき3ポイント(旅行会社企画・実施のものも含みます)を進呈させていただきます。
特定のポイントが溜りますと、素敵なプレゼントを贈呈させていただきます。
詳細につきましては、 http://yamatenki.co.jp/point.php でご確認ください。

雲を学べる絵葉書11枚入りセット(10ポイント溜まるとGET!)

猪熊隆之(いのくまたかゆき)

国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテン http://yamatenki.co.jp/ の代表取締役。中央大学山岳部監督。国立登山研修所専門調査委員及び講師。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。チョムカンリ登頂(チベット)、エベレスト西稜(7,700m付近まで)、剣岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀歴がある。著書に山の天気にだまされるな(山と渓谷社)、山岳気象予報士で恩返し(三五館)、山岳気象大全(山と溪谷社)。共著に山の天気リスクマネジメント(山と渓谷社)、安全登山の基礎知識(スキージャーナル)。

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