田中陽希さん「日本3百名山ひと筆書き~Great Traverse~」⑩

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毛勝山

10月2日、初めての毛勝三山縦走路へ挑みます。谷間を行く林道を上流に向かって歩き、途中からブナクラ峠まで沢沿いを細かいアップダウンを繰り返しながら登っていきます。ブナクラ峠が見えてくると、背後から雨雲が近づいてきました。雨の中ブナクラ峠に到着し、引き返すかどうかを悩みましたが、山の天気予報では次第に回復傾向とあったので信じて進むことに決めました。猫又山への急坂はキレイに刈り払いされていて、事前情報よりも歩きやすく快適に山頂まで登ることができました。猫又山から釜谷山へは目と鼻ほどの距離ですが、霧が晴れずになかなか見えません。踏み跡はうっすらとあり、ピンクテープのマーキングもあります。草紅葉の斜面をトラバースするときに、方角の確認を怠らないようにすれば、濃霧の中でも安心して歩けます。今回の旅では濃霧の中での登山が極めて少ないので、今日の毛勝三山も記憶に残る日になりそうです。濃霧であっても、見えるものや出会いがありました。チングルマなどの草紅葉、冬の準備を進める雷鳥さん。濃霧でしか味わえない感覚も久しぶりでした。それらを感じながら、3年ぶりの毛勝山に無事登頂しました。

後立山連峰縦走

10月4日、いよいよ北アルプス最長の縦走が始まります。まずは朝日岳への登山口に向けて舗装された林道を歩きました。荷物は久しぶりに15キロ以上、靴はランニングタイプの物から登山靴に変えたので足取りを確かめながら歩き、まずはイブリ山に登頂しました。イブリ山から朝日岳が見え、手前の前朝日から紅葉で彩られた姿が美しいです。イブリ山からは所々に木道があり、チングルマの紅葉が脇に、見上げればカエデやナナカマドの黄色や赤色、笹の緑が広がっています。木道の終点が見えると朝日岳の下に赤い屋根の朝日小屋が目に入りました。静かでいい雰囲気の佇まいに一目惚れです。今日の方が翌日よりもコンディションが良いので、荷物を置いてから朝日岳へと向かいました。30分ほどで後立山連峰最初の朝日岳に登頂しました。久しぶりに北アルプスで自分好みの山に会えました。

10月5日、今日の行程は朝日小屋~水平道~雪倉岳~白馬岳~白馬山荘までのコースタイム8時間ほどです。水平道は見事な紅葉で、今年一番です。雪倉岳や白馬岳方面は雲に隠れたままですが、登頂する頃には晴れると信じてのんびりと歩みを進めました。雪倉岳への登りが始まると徐々にハイマツと岩の山肌が増え、北アルプスらしさが出てきました。3年前は真っ白い銀世界の中での登頂でしたが、今回は紅葉の中で雷鳥と出会え、違う表情の雪倉岳に登ることができました。雪倉岳から白馬岳へと近づくと霧がかかり、山頂部は隠れてしまいましたが、岩や砂礫が白くなり山頂が近づいてくるのがわかります。間もなく三度目の白馬岳に登頂しました。後立山連峰最高峰から見下ろす白馬大雪渓や、崩壊した東斜面の荒々しさは健在です。そして、この旅ではお馴染みの白馬山荘へと入りました。白馬山荘からの立山連峰や白馬三山の山々は相変わらずの美しさです。

10月6日、出発前から最高のコンディションに恵まれ、朝日で光り輝く山々へ歩き出しました。白馬三山の杓子岳、鑓ヶ岳へと続く縦走路からは、八ヶ岳と、その隣には雲海の先に頭を出した富士山が見えました。杓子岳を経由し、真っ白い姿をした鑓ヶ岳に登ると、後立山連峰の後半の山々が見え、そして後立山連峰の最難所「不帰嶮」が唐松岳の手前にそびえていました。天狗山荘前を通過して天狗の大下りへと突入します。最低コルまで下りきりまずはウォーミングアップの一峰へ、そして二峰北峰からは一気に険しさが増します。二峰南峰を登りきると安心感が増し、緊張は緩やかに落ち着きます。三峰へは険しい岩壁を回り込むように抜け、82座目の唐松岳へ登頂しました。山頂からたどってきた道のりを振り返り、改めて難所を無事に抜けられたことにほっとしました。

10月8日、うっすらと見える五竜岳の輪郭が今日の好天を静かに伝えてくれました。出発直後、霧に写る自分の姿が目に入りました。人生初のブロッケン現象です!五竜岳の山頂からは360度の素晴らしい景色です。その後、八峰キレットが控える鹿島槍ヶ岳までの縦走路へと進みました。キレット小屋に到着し、目の前の八峰キレットと天高く見える鹿島槍ヶ岳の北峰を見上げました。そして、4年ぶりの八峰キレットへ。いい緊張感を保ちながら順調に抜け、ホッとしたのもつかの間、見上げた鹿島槍ヶ岳への劇登りが続きます。ピッチを保ち2座目の鹿島槍ヶ岳北峰に登頂しました。前方には双耳峰の鹿島槍ヶ岳の南峰が聳えていました。北峰よりも40メートルほど高い南峰山頂からは心地よい稜線が続いていました。爺ヶ岳へ向かう途中の黒部峡谷の十字峡へと続く深い谷は、カラマツとダケカンバがキレイに紅葉しています。最後の登りで1日の疲れが出てバテ気味で85座目爺ヶ岳の登頂となりました。

10月9日、種池山荘で明日朝までの水も確保して出発。荷物の重量はこれまでで一番です。少し進むと、真正面に立山連峰が見えました。黒部峡谷を挟んで目と鼻ほどの距離ですが、後立山連峰をぐるりとまわって2週間以上かけてきました。荷物が重くなったことや針ノ木岳手前のスバリ岳が予想外に難所だったことでタフな午前中となり、12時には針ノ木岳に登頂しました。立山連峰や黒部湖などがよく見えます。軽く補給を済ませ針ノ木小屋へと下りました。誰もいないキャンプ指定地からは槍ヶ岳や穂高岳がくっきりと見えました。絶好のロケーションにテントを張り、不要な荷物を中に入れて、87座目の蓮華岳に向かいました。蓮華岳は後立山連峰の南限といわれ、北アルプス縦走は明日以降も続きますが一つの節目となりました。針ノ木小屋からちょっとだけ急登を踏ん張れば、山頂までは白い石とハイマツの中の心地よい歩きです。タイミング悪く登頂するときは雲に覆われてしまいましたが、雲が稜線を流れていく光景も良かったです。

烏帽子岳

10月10日、営業小屋が小屋閉めとなったため、水を確保するために針ノ木小屋から針ノ木谷まで下がって烏帽子岳へ向かいます。出合手前で水を3リットル補給し、船窪乗越への登り口まで下流へと歩きます。乗越に到着してビックリ!稜線から不動沢側がスッパリと崩れ落ちています。3年前に渡った吊り橋が辛うじて見えました。さらに船窪岳、第二ピーク、不動岳への縦走路は一歩踏み外せば不動沢までまっ逆さまです。地図には「危」の書き込みは一つもなく、七倉山から不動岳までのルートは熟練者や健脚者向きでしょう。加えて、一つ一つのアップダウンもかなりの傾斜です。寒さも影響して体力の消耗は激しくなりました。ホッとできる南沢岳までなんとかたどり着き、そこからは、四十八池の美しい眺めが広がりました。花こう岩の特徴的な形をした烏帽子岳は強風で、一番高い岩の上には立つことができません。初めて歩いた稜線はスリリングではありましたが、新鮮さがあり、しっかりと山を味わうことができました。

野口五郎岳

10月11日、烏帽子小屋から三俣山荘まで水場がないため、今日はまだ営業をしている三俣山荘にたどり着く必要があります。歩き出して1時間もたたないうちにこの日最初の雷鳥と遭遇しました。それからさらに1時間ほどで、今度は5羽の雷鳥と遭遇。空模様は青空が出たり出なかったりが続きましたが、のらりくらりの天候も89座目の野口五郎岳でピシャリと止まってしまいました。3年前に野口五郎岳に登ったときはスッキリ晴れて、目の前には表銀座の山並みが見えました。今回は30メートルほどの視界で、表銀座の山並みは見えませんでした。野口五郎岳には長い北アルプスの縦走の中で必ず来る濃霧を歩く日に当たってしまい申し訳なさがありますが、今日は仕方がないと目をつぶってもらいました。東沢乗越を過ぎると、この日3度目の雷鳥との遭遇です。こういう厳しい条件だからこその出会いでした。そして4年ぶりの三俣山荘に到着し、早々に山小屋の方々からの温かな出迎えに心暖まりました。

鷲羽岳、水晶岳、赤牛岳

10月13日、昨日一日待った甲斐があり本日は快晴です。長い一日になるためお腹一杯朝御飯を頂き、まずは目の前にそびえる90座目の鷲羽岳へ登ります。朝の気温は-3度で、鼻が痛く、鼻水が止まりません。出発から30分で山頂に到着、全身で太陽を浴びながら1時間ほど山頂からの景色を眺め、続く91座目の水晶岳へと向います。水晶岳山頂直下で4年前にも発見した黒い岩に含まれる白い水晶を今回も同じ場所で見つけました。太陽の光りが反射してキラキラと輝いています。水晶岳からは裏銀座の野口五郎岳や雲の平がよく見え、黒部ダムを挟んで立山連峰と後立山連峰も見事な景色です。赤牛岳までは、比較的緩やかなアップダウンを繰り返しながら、牛の背中を歩くような感じです。特別天然記念物のカールは美しく、このカールを見る場所として赤牛岳は最良の場所でしょう。正午に92座目の赤牛岳に登頂しました。北アルプスの中心部を貫くような水晶岳から赤牛岳への縦走路は、見た目以上にタフなコースです。三俣山荘に16時前に到着、1日の移動距離は18キロを超えてタフな1日でしたが充実の1日となりました。 

薬師岳

10月15日、天然記念物の圏谷群(カール)を覗くのを楽しみに、太郎平小屋から登り始めます。太郎平から山頂がすでに見えているため近くに感じますが、往復5時間半のコースタイムで8キロあります。途中の山荘裏から楽しみにしていた圏谷群が始まりました。上から見下ろすとその大きさと美しさに驚きます。これを3つ持つ薬師岳は赤牛岳から見たときもどっしりとしていました。山頂へ向かうと、次第に西から風が強くなり雲が湧き山頂は包まれました。山頂で天気が回復するまで待つことに決め、風をしのげる東側の斜面に腰を下ろしました。昨日よりも日中の気温が低く、冬が直ぐそこまで来ていると感じました。1時間たっても、2時間たっても、結局雲は晴れませんでした。それでも前回よりも多く発見がありました。薬師岳からわずかに見えた立山連峰や後立山連峰、そして鍬崎山が目の前に見え、3週間をかけて、北アルプスの北部、中部の山々をぐるりと一周してきたことを目の当たりにした一日でした。

黒部五郎岳、三俣蓮華岳

10月16日、太郎平小屋を6時半に出発、ゆったりと北ノ俣岳へと登っていきます。山頂につくとドンと黒部五郎岳、そして等間隔に笠ヶ岳、乗鞍岳、御嶽山がきれいに見えます。北ノ俣岳から一度鞍部へ下りて、黒部五郎岳へと登り返しました。美しいカールを見たくて霧に包まれる前の登頂を目指し、なんとか間に合い10年ぶりにカールを見下ろしました。山頂で腰を下ろしてカールを眺めながらコーヒーで温まりました。黒部五郎岳からは、これまで歩いたことのない稜線コースで黒部五郎小屋へと下りました。山頂を出発すると天気はさらに回復し、太陽の光りがカールに差し込みました。始めて歩いた稜線からの眺めに、思わず気持ちが高揚します。三俣蓮華岳に登頂すると、山頂からはお世話になった三俣山荘が見えました。無事に薬師岳、黒部五郎岳と登ってきたことを伝えるため法螺貝を黒部川源流の谷に響かせ続けました。すると小屋のスタッフの方が気づいてくれて、小屋からぞろぞろと人が出てくるのが見えた。ようやく、北アルプス中心部から脱出し、いよいよ北アルプス南部の山々へと足を踏み入れます。満足度の高い1日となりました。

笠ヶ岳

10月17日、朝6時半、双六小屋を出発。4年前は雪渓におおわれた笠ヶ岳への縦走路を歩きました。昨晩同じ山小屋に泊まっていた登山者は、皆さん鏡平経由で新穂高へと下りていくそうで、笠ヶ岳へと向かうのは僕だけです。うっすらと穂高連峰が見えましたが、あっという間に稜線は霧に包まれました。前回は登らなかった抜戸岳を登り、雷鳥の群れに会いました。静まり返った笠ヶ岳山荘の前で弁当を食べながら笠ヶ岳が晴れてくるのを待ちました。1時間ほど待ちましたが、山荘から見える笠ヶ岳山頂は見えたり見えなかったりを繰り返しています。前回は山頂に登ると同時に雲に包まれて山頂からの展望と出会うことができず、今回は…とギリギリまで待ちましたが、山頂からの展望は、またの機会となりました。まぁ~仕方がない!これが山だ♪と気持ちを切り替えて、2週間ぶりの麓へと下山しました。


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