田中陽希さん「日本3百名山ひと筆書き~Great Traverse~」(30)

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再出発の準備

5月は23~0時に就寝し、9~10時に起床という日がほとんどでしたが、このままの生活リズムだと旅再開後に影響すると思われ、6月から22時過ぎには布団に入り、7~8時前に起床するように心がけています。今は走ることが体力維持だけではなく、再び力強く歩き、登るための準備であり、アスリートとしての仕事でもあります。休養日には日帰り入浴施設に行き、サウナで汗を流し、水風呂に入り、交換浴を繰り返すことで体のケアをしています。再出発のスケジュールは事務局と相談のうえ、感染状況や、都道府県間の移動がすべて解除された後の世間の動きを慎重に見極めてから、最終的に決めることに。おおよその再出発時期の目安を決め、スケジュールの修正に取り掛かかりました。丸一日かけて、ツーリングマップや東北全図の地図、山と高原地図などをフル活用しながら、東北最後の龍飛崎まで修正。この旅でいったい何度目のスケジュール修正となるのだろうか。改めて長い旅になってしまったことを感じます。

募る不安を振りきって

6月29日、自粛生活を始めてから先行きの不安により、これまでで最も心身が落ち込みました。このままでは再スタートの日を迎えても晴れやかな気持ちで歩き出すことができないと自分自身に危機感を覚え、午後から走る距離や時間を決めずに一心不乱に走り出しました。見上げる梅雨空が重たく、今の自分自身にぴったりの色。走り出して1時間もすると少しずつ雲は軽くなり、青空ものぞかせました。それと同じくして体から大量の汗が吹き出し、ドロドロした汗からさらっとした汗へ。徐々に体も軽くなり、足取りも軽くなります。あまり考えこまず、ただひたすら続く道を走りました。今日は久しぶりに日本海に沈む夕日を見られるかもしれない、いい写真を撮れるかもしれない、と国道から海岸へとステップを切りました。日没が近づくにつれ、さらに梅雨空は晴れ、まぶしい西日が全身を包んでくれました。風もなく波は穏やか。海岸線に打ち上げられた大きな流木の上に乗り、太陽に向かって何度も跳びました。全身で不安を振り切るイメージで。

空き家自炊生活最終日

7月16日、出口まであと一歩の朝が来ました。冷蔵庫や台所回りの調味料なども少なくなりました。午前中の雨予報は曇りに変わり、明日以降の晴れ予報が変わらずのままで、ほっとしています。午後はいつものように走りに出ました。3か月前とはがらりと変わった鳥海山や庄内平野の田園風景も、これで見納めです。すっかりこの地の風景に馴染み、旅の中で生まれた故郷から旅立つ寂しさが自然と募りました。また一つ、旅が無事に終わったら必ず戻ってくる場所が増えました。感謝。この地に、手を差し伸べてくれた人たちに、温かく見守ってくれた人たちに、応援を続けてくれた人たちに。夕方、お世話になった方々へ、再出発することを伝えるため挨拶に回りました。皆さんからの「よかったですね!」「寂しくなりますね~」「これからも応援しています」の言葉に心が温まります。明日は最高の笑顔で、3か月間ぶりとなる「一歩」を踏み出せるでしょう。ありがとうございました!

3カ月ぶりの一歩

7月17日、3ヶ月待ち続けた旅の再出発の朝。8時半の出発に合わせて、朝風呂、掃除、朝食、パッキング、そしてお借りした家の中を大家さん家族に確認していただき鍵を返却しました。出発前から町の人たちが見送りに駆けつけてくれました。最後に玄関から家の中に向かって「3ヶ月間ありがとうございました。」と一礼。「ようやくですね。寂しくなりますが、ゴールまで頑張って!応援しています。」とたくさんのエールをいただき、3ヶ月ぶりに新たな一歩を踏み出しました。見えなくなるまで何度も手を振りました。少しずつ小さくなる町を背に、真室川町へと続く峠道を力強く歩きます。これだけ一カ所に長くとどまり続けたことが初めてだったので、なんだか新しい旅を始めるような気分。町から20キロで峠のトンネルに到着し、酒田市側に振り返り深く一礼しました。駆け足で真室川町へのトンネル出口へ。さあ、再び旅が動き出します。

神室山

7月20日。259座目の鳥海山を登ってから3ヶ月。前進の朝が来ました。夜明け前に起床。心配していた天気を確認するため、窓を開けて東の空を見ました。薄明るい空に雲はなし。良し!予報通りだ!区切りの260座、神室山への出発準備を進めます。いつもなら少し出発時間に遅れてしまいますが、再開後最初の山だけにいいスタートを、いい流れを作りたく、準備は出発15分前に終えました。久しぶりの登山、夏山は今年初めて。緊張する自分を落ち着かせるため、ベッドに横たわり10分だけ目を閉じました。やるべきことはただ一つ、神室山に登頂して無事秋田県側へ下山すること。高なる鼓動に合わせて、せっせと5キロ先の登山口へ。二股までは湿った沢沿いの登山道を緩やかに登っていきます。二股から急登が始まる地点までは、コースタイムから少し短縮して到着。そこから標高差700メートル以上の急登は、登山に必要なお尻や脚裏の筋力不足で力強さは薄れていましたが、なんとか主稜線まで1時間ほどで登りきりました。主稜線に出てようやく展望が広がり、登山道脇にはたくさんの夏の花が何種類も咲き誇っています。眼下には雲海、遠くには東北らしい緩やかな曲線を描く山々が。出発から2時間40分で260座目神室山に無事登頂。神がすむ山、神の家というように、東西南北に優しさを感じる山並みが広がっていました。これでようやく山形県を無事に終えられます。秋田県側の下山口へとパノラマコースを縦走し、東北北部へと3ヶ月遅れで下り立ちました。驚くことに、なんと5年前と同じ日に神室山に登頂していたことが分かりました。ご縁を感じずにはいられません。麓は30度を超える暑さ、今年の夏はすぐそこに来ています。

 

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