田中陽希さん「日本3百名山ひと筆書き~Great Traverse~」(43)<最終回>

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ニセイカウシュッペ山

7月15日、4時20分に出発。夜明け前の空にくっきりとニセイカウシュッペ山が見えます。宿からニセイカウシュッペ山までは片道約30キロ、往復60キロ。ふぅと強く一息、緊張感高くして、まずは林道入口までの約11キロを走り始めました。ここ数日、町内での羆の目撃情報があったため、熊鈴を鳴らします。1時間10分ほどで林道入口。ここからは一気に道端が狭くなり、羆との遭遇リスクも高くなります。林道に入ってから2時間、標高1140メートルの登山口に到着。前半は木漏れ日が差し込む緩やかな道のり。足元がぬかるみ滑りやすい為、転倒には注意が必要です。標高1300メートル付近から尾根が少しずつ細くなり、木々の背丈は低く、合間からは天塩岳や表大雪の山々が。さらに標高を上げると、大槍、小槍の断崖が目に飛び込んできました。眼下には深い谷間、そして谷の奥には、ニセイカウシュッペ山が見えます。高山植物たちが斜面いっぱいに咲く標高1500メートルを超え、大槍の北側斜面をトラバースしながら登り切ると、山頂までの気持ちのよい尾根歩きに。東側にはアンギラスという名の岩峰、ニセイカウシュッペ山は円くどっしりしていて対照的です。そこから10分程でニセイカウシュッペ山山頂へと到着。初登頂、299座目!山頂からは登ってきた三日月のような尾根道と、その奥には東大雪から表大雪までずらりと見渡すことができました。10時30分、約30キロ先の宿に向けて下山を開始しました。

天塩岳

7月17日、300座目へと向かう朝。8時30分に2百名山の時も利用した協和温泉を出発。今日の予定は35キロ先の登山口まで、宿泊は登山口の立派なヒュッテ。歩き出してから天気予報を確認すると明朝の予報が下方予定のため、今日中に山頂手前の避難小屋まで登ることにしました。スパッと決断できたのは、300座目が自分で意識していた以上に大きな一座になっているから。少しでもイイ瞬間、イイ場面を迎えたいという思いが自分を突き動かしています。14時30分に登山口へと到着。ヒュッテ内に必要ない装備だけデポして、15時30分に避難小屋へと出発しました。他の登山者がほとんど下山した時間に登山口を出発する機会は少なく、いつもとは違う時間の登山は新鮮です。登山口から1時間半で円山山頂に到着。ゴーロ地帯からは久しぶりに聴くナキウサギの声があちらこちらから。円山からの気持ちの良さそうな尾根道の先に、本峰の天塩岳。円山からの眺めを十分堪能し山小屋へ入りました。小屋で少し休んでから、小屋裏にある西天塩岳へ。山から見るこの旅最後の夕日、雲の切れ間から赤く染まる太陽が北西の地平線へと消えていきます。

7月18日。夜明け前外に出ると、ちょうど太陽が雲間から顔を出しました。前天塩岳はかろうじて見えますが、天塩岳は強風で湧き上がる雲に完全に包まれてしまっています。5時20分に山小屋を出発。「きっと晴れる」、根拠の無い自信があります。山頂まで残り100メートルまで来ると、少しずつ雲の先から太陽の光が届き始めました。時折雲が薄くなると山頂標識が見え、もうすぐそこだと思った次の瞬間、風がブァ!と強くなり、雲がどんどん風下へと流され消えていきます。それはまさに、天塩岳による300座目登頂の最高の演出でした。ニセイカウシュッペ山、大雪山、十勝連峰、遠く阿寒岳や夕張岳まで。背中を強く押す風がたくさんの応援者たちからの祝福の激励のように感じられます。次はいよいよ利尻島へ!

利尻岳

8月2日。5時前、枕元で響くアラームの音。カーテンを開けて空模様へと目線を向けると、曇天の空に「あああぁぁ~」と抑えることもなくこぼれました。3日以降の予報も確認すると…雨予報が。最後の山を前に、想像していた光景とはかけ離れた予報。この時点では登山決行の判断ができず、もう2時間ほど天気の推移を観察することに。「待つべきか」「行くべきか」「とりあえず途中まで登ってみるか。」山のことで頭がいっぱいで、落ち着きません。この時はなぜか、今日登らずに明日以降の好機を待ち続けられる、という心境ではありませんでした。きっと、これだけ長い挑戦となり、「好機を待つよりも、早く挑戦を終えたい」という気持ちが強く働いたのでしょう。手に届く距離にある利尻山。そして「行こう!」と決断。9時30分に登山口を出発。体の中に熱がこもり、序盤は軽い熱中症に陥りながらの足取りに。積極的に水分補給と塩分補給をしたことで中盤からは何とか持ち直し力強さが戻りました。7合目の手前で「山頂までの展開」を冗談交じりで口に。「8合目までは青空が広がり、9合目手前で曇りはじめ、九合目で完全に雲に包まれ、山頂手前で強い風により、雲間から空が顔をのぞかせ、登頂と同時に雲が流れ、雲海の上に山頂だけが頭を出して、大興奮で登頂する」という展望。すると、8合目までは燦々と太陽が降り注ぎ、眼下の町や海が一望できるほどの好天。9合目への登りから、山頂を越えてくる雲が下がってきました。9合目の三眺山に到着すると、雲に包まれ視界が20mほどに。鳥肌が立つほどに口にした展開通り。登り始めは「途中で引き返すこととなってもやむなし」の気持ちでしたが、視界不良になる状況にも関わらず、展開通りに山頂では晴れるという根拠のない自信が強く背中を押していました。三眺山の小さなお社に手を合わせ、鴛泊コースとの合流点への難所のトラバースへ。足場は崩れやすく、落石が頻発するルートに緊張感が高まります。13時過ぎ、鴛泊コースへと合流。未だに空模様の状況は変わりません。天候の回復よりも「あと少しで301座目…最後の山に登頂してしまうのか。」というこれまで感じてこなかった心境になっていました。これまで以上に一歩一歩をゆっくり踏みしめ、ふと立ち止まると込み上げるモノが。「おっとやばいやばい。危ない危ない。」と、寸でのところで、押しとどめました。山頂まで残り50mほどで、7年ぶりに目にする山頂の社が見えました。勢いよく駆け上ろうか、それともゆっくりと、と思っていると、雲が少しずつ流れ始めました。なんと途中で口にした展開通りに山頂を覆っていた雲が晴れ始めたのです!13時30分、その興奮を抱えながら、登頂への最後の一歩へと進みました。山頂にいた登山者のみなさんから温かい拍手と「おめでとうございます!」の言葉をいただき、山頂のお社にて301座目の登頂のお礼を伝えさせていただきました。そして、空に向かって叫びました。「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!」その叫びの中に様々な感情が込められています。登頂から30分ほど経過したころ、西の空が見え、展望は雲海に海に町にと360度様々。16時に301座目、最後の頂に別れを告げ、「日本3百名山ひと筆書き~Great Traverse3」の終幕のため、麓の町へと駆け下りました。18時30分、沓形岬公園を今回の挑戦のゴールの地とし、最後の、本当に最後の一歩へ。約3年7ヶ月(1310日間)の挑戦に幕を下ろしました。

皆さま、2014年から始めたひと筆書きの挑戦もここで幕を下ろします。
本当に、本当にありがとうございました。
いつか、そう遠くない未来に皆様の手を取り、感謝の気持ちを伝えることができる日を楽しみにしています。

その日までどうかお元気で!

 

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