田中陽希さん「日本3百名山ひと筆書き~Great Traverse~」(34)

  1. ホーム
  2. > 日本3百名山ひと筆書き
  3. > 田中陽希さん「日本3百名山ひと筆書き~Great Traverse~」(34)

津軽海峡横断

9月29日、津軽海峡をシーカヤックで渡る朝。いつになく緊張しているのが自分でも分かります。津軽海峡を渡るときはこれまでも両親が手伝いに来てくれます。百名山の時は本人以上に不安な表情を見せる両親でしたが、3回目ともなれば肝も据わってくるようです。昨晩は夢見が悪く、移動途中の両親が事故にあったり、自分が津軽海峡横断中にマグロ漁船と接触しシーカヤックが水没したりと、出発前に見る夢としては最悪。気持ちを落ち着かせながら、最終確認をして、シーカヤックを出艇場所の義経海峡公園のビーチに運びました。

自分と両親が無事に対岸の福島町に到着することを強く願い出艇。風はほとんどなく、波もゆったりとした上げ下げのみ。これ以上ないコンディション。まずは、竜飛崎まで海岸線を10キロほど漕ぎ進みます。なんのトラブルもなく1時間20分ほどで懐かしい竜飛崎の海上に到着。目指すは北海道。津軽海峡の先には北海道がはっきりと見えます。その間の海上には3隻の漁船と大型船が1隻目視で確認できます。竜飛崎の帯島のそばで、西からの風を遮りながらしっかりと行動食と飲料水を補給しました。気持ちを高ぶらせ、「東北、本州ありがとう」と陸に手を振り、パドルに力を込め、「いくぞ!北海道」と叫び津軽海峡横断を開始。


まずは、目印にしやすい白神岬を目標に、やや西よりに漕ぎ進めました。漕ぎ始めて30分、東側に進路と平行するように白波が一直線に延びていることに気がつきました。大きな潮目で、潮が早くなっている部分。最初は200メートルほど離れていたため、それほど警戒していなかったが、10分程漕いでいるとだんだん近づいていました。自分が徐々に流されて近づいているのだとわかり、慌てて逃げるように思いっきり西に漕ぎ続けました。しかし、時すでに遅し。みるみるうちに川のように激しく波立つ潮目に引き込まれてしまいました。潮目の幅は約100メートル、それより東側は再び穏やかな波となっていました。6年前も竜飛崎を出てすぐに同じような潮目を越えた記憶が蘇ります。前回 は小潮、今回は若潮のため、前回よりも波が立っていて、思わず慌ててしまいました。
数日前津軽半島を北上する中で、最古の旧石器時代の遺跡にふれることに。その時に見た約3万年前の日本列島の地図では、かつて北海道と東北がつながっていました。それが温暖化により海面が上昇し、今のように津軽海峡となったのです。海底には以前陸地だった地形が残っていることが予想されるため、深いところから一気に浅くなり流れる速さに差が出来てこの津軽海峡の入り口部分に南北に長い潮目を作るのだと予想できました。
潮目の東側の流れは比較的緩やかで、潮目に沿って漕げば、自分が流されているのかどうかの目安にもできそうです。落ち着きを取り戻し、再び集中して前へと漕ぎ進むと、新たな課題が前方に出現。マグロ漁船です。ほとんどの漁船が潮目に沿って並んでいます。きっといい漁場なのでしょう。前回もマグロ漁船には絶対に近寄るなと助言をいただいていたので、今回もそれに従いました。しかし、東側に大きく迂回するように漕いでいると、もう一つの潮目が。先ほどよりは弱いですが、浅いところから深くなるためにできた潮目のよう。これを越えなければ迂回が出来ないため、さらに東に流されることを覚悟して越えました。
2つ目の潮目に沿って漕いでいると前方に漁船とは違う動きをする船が全速力で西へと横切って行きました。向かった先を見るとスゴい水しぶきが。漁船の船員が「マグロだ!マグロだ!」と興奮気味に叫んでいます。あとを追うようにマグロ漁船もそっちへと移動していきます。全速力で走るのは、漁船ではなくクルーズ船のような感じで、個人のマグロ釣りだそう。マグロの水しぶきを右に左に追い回していたため、早く同じ海域を出たい一心。GPSを確認するとやはり予定ルートよりもかなり東に流されていることがわかり、2つ目の潮目を東から西へと再び越えました。しかし、前半に潮目から逃げるために体力を使ってしまったため、予定していたルートに完全に戻ることをあきらめるしかありません。そして、上陸地点の福島川河口へと向かうことに変更。


小さな潮目をいくつか越えながら、竜飛崎を出発してから4時間、漕ぎ出しから5時間40分で無事に「北海道」へと上陸。喜びと共に安堵感に包まれました。上陸後はほっと一息入れたいところでしたが、両親にシーカヤックや装備を再び運搬してもらうため、宿までシーカヤックを自力で運び、水道をお借りして、休む間もなく片付けに。午後4時過ぎにようやく、全ての荷物を引き渡し、自宅へと帰る両親を見送りました。夕食後、やっとゆっくり出来る時間となり、余韻に浸ることなくあっという間に眠りに落ちました。

大千軒岳

9月30日、北海道1座目の朝。出発は6時過ぎ。吐く息は白く、まだ静かな福島の街を出て、大千軒岳奥二股コース登山口へと向かいました。昨日、津軽海峡横断を終えたばかりで、翌日には登山。少し無理をしすぎている感もありますが、これから先は雪との競争にもなるため、これまで以上に天候を優先することが多くなります。福島町内からの直線距離では大分近いですが、登山となると1日の総距離は41キロ以上。和賀岳以来のなかなかタフな1日です。国道から外れヒグマがよく目撃されているという林道に入り、熊鈴だけではなく、スプレーをいつでも噴射できるよう腰に装着し走りました。8時に登山口到着、休まず登山を開始。橋が流されたために早速の渡渉。靴が濡れないように飛び石をつなぎました。そこからはしばらく、急な斜面をトラバースしながら、知内川に沿って歩きます。広い河原から先は比較的歩きやすく、ペースが上がりました。午前11時前二股に到着。予想以上に時間がかかりました。上空は濃い雲が絶え間なく流れていますが、回復を信じ、いざ急登へ。

ところが、登り始めて直ぐに体調が急変。腹痛に加えて頭痛まで。昨日の疲労がまだ残っていたようです。薬を飲んでその場しのぎをしながら、ペースを落として我慢の登山となりました。それでも1時間もかからずに十字架が立つ主稜線へと登りきりました。一歩また一歩と一面の草紅葉の中を山頂へと進みました。

出発から4時間ほど、北海道1座目大千軒岳に初登頂させていただきました。麓よりも秋が進んだ優しく美しい曲線が前千軒岳へと続いています。到着できた喜びから、体調も少し回復。山頂からは雲は風に流され、遠く昨日渡ってきた津軽海峡や日本海、函館まで見渡すことができ、北海道にいながら、ここが北海道本土ではなく大きな島のように思えました。山頂での短い時間を堪能し、あっという間に西へと傾く太陽を背に登山口へと下山を開始。これから始まる長い北海道の山旅に、いい流れを作ることができたと思います。

<過去の記事>

  • 入会お申込み
  • 講演会のお知らせ
  • ネットショップ エマグストレージ
  • メールマガジン受付
  • jRO事務センター便り
  • JROチャンネル
  • JRO×ココヘリ一括入会プラン
  • JRO×ココヘリ(jRO会員の方)
  • ヤマモリについて
  • 山と自然のネットワークコンパス Compass

田中陽希と学ぶ jROの山岳遭難対策制度