日本の国立公園の山の魅力⑲「大雪山国立公園」

  1. ホーム
  2. > 自救力アップ講座
  3. > 日本の国立公園の山の魅力
  4. > 日本の国立公園の山の魅力⑲「大雪山国立公園」

北の山で学んだ自然との共生を目指した管理や登山道整備


豊富な高山植物も大雪山系の魅力(写真=環境省)

・国立公園で働く貴重な機会をいただいて思ったこと

もっぱら登山者として国立公園を利用させてもらう立場にいましたが、昨年の9月下旬~10月上旬にかけて、違った視点から色々と勉強させていただく機会を得ました。長年勤めた山の雑誌社を定年退職し、改めて「山」を総合的に考えてみたいと、筑波大学に設けられた「山岳科学学位プログラム」で学ぶ日々のなか、授業の一環として、環境省でインターンシップを経験させていただいたのです。

お世話になったのは層雲峡地域などを管轄する環境省上川地方環境事務所。ちょうど紅葉の最盛期を迎えていた「大雪山高原温泉沼めぐり登山コース」でのパトロールほか、色々な仕事を体験させてもらいましたが、果てしなく広がる青空と、立っているだけで身も心も錦繍に染まってしまいそうな湖畔の静かな森に抱かれて、至福の時間を過ごすことができました。

パトロールの途上、遙か頭上に見上げる稜線や、トムラウシ方面の空を眺めながら、遠い昔、山岳会の先輩と二人で、この地で夢のような沢旅をさせてもらった記憶が、昨日のことのように蘇って来ました。それは40年ほど前の夏、クワウンナイ川周辺の沢を何本か遡下降した後に、黒岳まで縦走したときの思い出です。沢の源頭の広大なお花畑では、足の踏み場もないほどに咲き競うチングルマに圧倒され、花を踏まずには一歩も進めないような状況に、ただ呆然と立ちすくんでしまいました。誘ってくれたその人も、20年ほど前の秋、福島県の吾妻連峰の沢に単独で出かけたまま、還らぬ人となってしまいました…。それが、私が山の遭難について深く考え、今は日本山岳救助機構でお世話になっている契機ともなりました。

・「カムイミンタラ=神々の遊ぶ庭」と称された美しい景観や動植物

大雪山国立公園は北海道の中央部、石狩川と十勝川の源流地域に位置し、「北海道の屋根」と言われている一帯です。旭岳(2291m)を主峰とする大雪火山群を中心に、トムラウシ山から十勝岳連峰、石狩岳連峰なども含めた226,764haに及ぶ広いエリアで、アイヌの人々から「カムイミンタラ=神々の遊ぶ庭」と称さてきた美しい景観が、私たち登山者を迎えてくれます。

山々の多くは標高2000m前後ですが、高緯度のため厳しい高山環境を有しています。山麓部はエゾマツ、トドマツなどの針葉樹や、広葉樹の広大な樹林が見られ、標高を上げるとともに、ダケカンバ林やハイマツ帯へと変化し、稜線付近では日本の高山植物の4割に相当する約250種が確認されているとのことで、エゾオヤマノエンドウやホソバウルップソウなどの固有種や、リシリリンドウのような分布が限られた種も見られます。

ヒグマ、エゾシカ、キタキツネ、エゾオコジョ、エゾリス、寒冷な岩場に生息地が限られるエゾナキウサギなどの哺乳類や、国の天然記念物のシマフクロウ、クマゲラなど多くの鳥類も生息しており、ウスバキチョウ、アサヒヒョウモンなどの高山蝶に出会うこともできます。
旭岳や十勝岳などの火山が作り出す景観や特徴的なカルデラ地形、山麓の層雲峡や天人峡で見られる柱状節理、凍結により泥炭が縞状に盛り上がったパルサと呼ばれる地形や構造土現象など、この地域ならではの興味深い景観も、地球の歴史を感じさせてくれるものです。山麓に湧き出る豊富な温泉から得られる癒しも、私たち登山者にはありがたいものです。


沼の原から見たトムラウシ山(写真=環境省)


チングルマなどの大群落(写真=環境省)


ヒグマ(写真=環境省)


エゾナキウサギ(写真=環境省)

(以上の写真は「環境省ホームページ」より https://www.env.go.jp/park/parks/index.html)
●おかげさまで、いろいろな視点からの発見がありました

インターンシップを通して学んだことは、ヒグマの管理体制や、近自然工法による荒れた登山道の修復方法など多々ありましたが、「大雪山高原温泉沼めぐり登山コース」で定められている入山ルールも、とても勉強になりました。

コースを歩く人は、まず、ヒグマ情報センターで受付をし、映像などによるレクチャーを受けてから山に入ります。食事ができる場所の設定や、火器使用の禁止などのルールも明確に定められ、適切に管理運営されています。全国的に「登山者のマナー」や「山での常識的なふるまい」が希薄になってしまっている傾向も見られますが、「入山口でのわかりやすい説明や指導」という意味での先進例を見られた気がしました。

映像はヒグマ目撃情報のほか、新鮮な内容も適宜取り入れられ、植生保護や外来種持ち込みの問題、排泄物の処理など多岐に渡っています。こうした管理体制が長年に渡って完璧に行われていることが、「大雪山ではヒグマと人間との事故が起きていない」という実績に結びついていることも実感しました。映像のなかでも、「クマについて100%安全はない」「出会わないことが大切」という、自己責任の考えかたが強調されていましたし、センター内の展示パネルからも、オウンリスクの大切さが伝わって来ました。

池巡りを満喫して戻って来た利用者の方々が、「このコースなら周る価値がある」「道も良くなって素晴らしい」といった感想とともに、「登山道整備のために、木材やカスガイなどの資材を購入します」と記された募金箱に、次々とお金を入れていかれる姿にも感動しました。実際にコースを歩いて心地よく感じた感謝の気持ちを込めての募金という、自然な受益者負担の心の芽生えは素晴らしいと思います。

また、「近自然工法」による登山道整備がなされた箇所は、自然との調和や歩きやすさなども行き届き、真心のこもった作業の成果を感じました。とくに、大雪山・山守隊の方々が実施している整備の理念には感動しました。「崩れた道をただ歩きやすく直すのではなく、その整備をきっかけとして生態系の復元を目指す」という考え方、そして、なぜ崩れたのか、どういう原因が重なっているのか、周りの植物が育つにはどうしたら良いか、どうしたら自然の成長と人間の利用のバランスが取れるのか、といった考え方やこの工法が、全国の登山道に普及できたらと感じました。


鏡のように静かな沼に周囲の紅葉が映る。滝見沼にて(写真=久保田)


ヒグマ情報センターで入山、下山を管理(写真=久保田)


近自然工法により整備された登山道(写真=久保田)

●コロナ禍での入山ルールなども公開されています

新型コロナウイルスにより、全国各地で登山への影響も出ていますが、大雪山国立公園でも、環境省が事務局となっている「大雪山国立公園連絡協議会」によって、この状況下で登山をする場合に注意して欲しい点などが、ホームページで発信されています。また、現地の状況や登山者みずからが注意すべき事項などをまとめた「大雪山国立公園登山 新型コロナウィルス感染症注意マップ」も公開されていますので、下記URLからご覧ください。

大雪山国立公園連絡協議会 新型コロナウイルス関連情報
http://www.daisetsuzan.or.jp/daisetsuzannp-covid19/

大雪山国立公園登山 新型コロナウィルス感染症注意マップ
http://www.daisetsuzan.or.jp/wp-content/uploads/2020/07/covid19cautionmap.pdf

 

「山の日」アンバサダー、日本山岳救助機構
久保田賢次

  • 入会お申込み
  • 講演会のお知らせ
  • ネットショップ エマグストレージ
  • メールマガジン受付
  • jRO事務センター便り
  • JROチャンネル
  • JRO×ココヘリ一括入会プラン
  • JRO×ココヘリ(jRO会員の方)
  • ヤマモリについて
  • 山と自然のネットワークコンパス Compass

田中陽希と学ぶ jROの山岳遭難対策制度