日本の国立公園の山の魅力⑫「北岳」

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南アルプス国立公園「北岳」

3000m級の山々が10座以上。深い森も魅力


お花畑と北岳
写真は「環境省ホームページ」より https://www.env.go.jp/park/parks/index.html

前回に続き、私が学生時代に出会った魅力的な山として、今回は南アルプス国立公園の北岳をご紹介します。初めての北岳行は、先の西表島の話とも関連します。

 

●仲間をとるか、北岳をとるか

西表や沖縄の山に出かけるため、「ハブへの対応はどうすればいいのだろうか」と調べるなか、いっしょに出かけるメンバーに群馬県太田市出身の人がいて、近くの藪塚にあるジャパンスネークセンターの専門家のかたにも訪問の打診をしました。しかし、なかなか返事はもらえずにいたのです。

私はといえば、「夏こそ、暑い沖縄の山へ!」と意気込んではみたものの、やはり「夏はアルプス」という正直な気持ちには逆らえず、西表を夢見た仲間と、梅雨が明けたらすぐ、トレーニングも兼ねて南アルプスへという計画も立てていました。
ところが、その山行予定が、やっと時間を調整して会ってくださることになった「ハブの先生」の都合と、まったく重なってしまったのです。
「ハブをとるか、北岳をとるか」。その頃の私の行動パターンは(今もそうですが)、先ずは人からの誘いや約束を優先することでした。歌のせりふで言うならば、「あれこれ仕事もあるくせに、自分のことは後にする」といった感じでしょうか。
しかし、この時ばかりは、「北岳に登ってみたい」という気持ちが勝っていました。大切な夏合宿を前に、仲間との気持ちの分裂が起きてしまうという心配はありましたが、「日本で二番目に高い山」、「涼しげな大樺沢の雪渓」、「広大なお花畑」といった多様な魅力は頭から消すことができず、悩んだ末に北岳行を選んだのです。
「ごめん、やっぱり北岳に登る」
「そうか。じゃあ、スネークセンターは独りでいく」
その電話は、とても残念そうな短い言葉を残して、ガチャンと切れました。メールなどない時代。固定電話を通じての短いやりとりでした。
●霧の縦走路。雷鳥とのふれあい

こうして出かけた初めての単独縦走。この原稿を書くにあたって、古いアルバムを開いてみましたら、高田馬場のスーパーストアで食料を買ったレシート(7月19日、計1,833円)や、北岳山荘のテント泊料金(200円)の領収書、列車の切符なども貼ってありました。
それらをもとに行程を思い返してみると、甲府まで夜行列車。芦安、広河原を経て大樺沢から登り北岳山荘でテント泊。当時、ザックは特大のキスリングしか持っていませんでしたが、さすがに一人で帆布の大きなテントを担ぐのは重すぎるので、ツエルトを持参したと記憶しています。北岳、間ノ岳、塩見岳と縦走し、伊那大島から帰りの列車に乗ったのが7月22日でした。
あいにく天候はすぐれず、遠望もきかない毎日でしたが、初めての単独縦走、初めての長い雪渓歩き、南アルプスらしい大規模な花の群落などに感激しました。ずっと富士山が間近に見えたことも。しかし、この40年前の山行で、一番記憶に残っているのはライチョウとの出会いでした。
あれは、北岳と間ノ岳の中間付近だったと思います。濃い霧に包まれた稜線直下のお花畑のほうから、グエッグエッという、あの特徴的な鳴き声が聞こえてきました。早朝でもあり、縦走路を進むのは、私ともう一人のかたとの二人きりでしたが、気配を感じた親鳥が、登山道を横切ってハイマツのほうに飛んでいきました。とり残された雛があわてて羽ばたこうとした瞬間、飛び立てずに私の登山靴と足との隙間に着地してしまったのです。
もちろん、なるべく体には触れないようにして、すぐに親鳥の近くに逃がしましたが、その時、一瞬、朝の寒気に凍えた指先に残った雛ライチョウの体温は、今も忘れることができません…。
●多様な魅力を持つ南アルプスの山々

南アルプスが国立公園に指定されたのが昭和39年だそうです、面積は35,752haとのことで、山梨県、長野県、静岡県にまたがっています。
環境省のホームページによると、「南アルプスは、甲斐駒・鳳凰山系、白峰山系、赤石山系の3つの山系から構成され、日本で2番目に高い北岳(3,193m)をはじめ、3,000m級の高峰を十座以上有し、大井川、天竜川、富士川の源流部となっています」と記されています。
また、夏に雨が多く、冬の雪は少ないため、大量の雨が引き起こす河川浸食作用によって、深く切れ込んだV字谷が数多くみられ、積雪量が少ないために森林限界が高く、稜線付近まで森に覆われているという特徴があるそうです。
さらに、日本で氷河が存在した痕跡のある最も南の場所で、仙丈ヶ岳や荒川三山などで見られるカール(圏谷)や、氷河時代に分布を広げ高山帯で生きているライチョウ、キタダケソウ、チョウノスケソウや高山蝶などの動植物もこの山域への夢や憧れを広げてくれます。


バットレスの雄姿を見せる北岳


深い原生林も南アルプスの魅力


ライチョウ


キタダケソウ


クモマツマキチョウ

写真は「環境省ホームページ」より
https://www.env.go.jp/park/parks/index.html

 

●北岳とのご縁は続く

*前述のような感動的な出会いがありましたが、その後も北岳や南アルプスとのご縁は続きました。この直後に入会した社会人山岳会には、冬季の南アルプスの沢に取り組んでいる先輩がおり、入会後初めての正月越年山行では、ふたりで西側の藪沢という沢から北岳をめざしました。
沢中で二泊、稜線にはいあがる頃には風雪が強くなってしまい、逃げ込んだ肩の小屋の冬期小屋の凍った寝袋のなか、ラジオで聞いた紅白歌合戦の中森明菜さんの歌声は、今も耳に残っています。
翌年の正月は塩見岳の沢に、その後しばらくは甲斐駒ヶ岳周辺にと、新年を南アルプスで迎えることが恒例でしたが、いつしか家のテレビで紅白歌合戦を見るようになって久しいです。
たまたまのライチョウとの「直接の」ふれ合いがきっかけとなったのかもしれません。山の環境や自然保護への思いも強まりました。当時、大きな話題となっていた北沢峠を通過する南アルプススーパー林道の関係でも、度々この地に通いました。
大きな台風の襲来で、麓の集落の被害も含めて林道が大崩壊した後、全線を歩いて調査する試みなどにも参加させてもらいました。その後、しばらく関心が別のところにいっていましたが、リニア新幹線のトンネルがこの山脈を貫こうとしている今、再び関心が向いている昨今です。
前回も書きましたが、「自然との出会い」が、「人との出逢い」につながり、さらに、歴史や文化、政治や社会を考えるきっかけともなる。私には南アルプス国立公園でのライチョウとの出会いも、その後の生き方の指針となりました。日々の生活や雑事に追われて、ついつい「自然を大切にしたい」という思いを忘れがちになってしまうこともあります。そんな時、あの時の雛の温もりが、私の心を蘇えさせてくれるのです。

初めての南アルプス縦走の途上


冬の南アルプスの沢に魅了されていたころ
筑波大学生命環境科学研究科 山岳科学学位プログラム
日本山岳救助機構
久保田賢次

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