雲から山の天気を学ぼう|(26)~丹沢空見ハイキングで見られた雲partⅡ~

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~丹沢空見ハイキングで見られた雲partⅡ~

前回に引き続き、12月23日~24日にアルパインツアーの丹沢・塔ノ岳登頂ツアーの際に見られた雲と気象状況についての解説です。24日は23日とは一転、塔ノ岳山頂では朝からガスに覆われました。

写真1 24日朝の塔ノ岳山頂(栗山利男さん撮影)

なぜ、1日でこうも天気が変わってしまったのでしょう(山ではよくあることですが)。その答えを得るために、天気図を見てみましょう。

図1 24日6時の天気図(気象庁提供)

天気図を見た限りでは、丹沢付近は高気圧に覆われているように見えます。しかし、よく見てみると、高気圧の中心は丹沢より東側にあります。つまり、partⅠで説明した②のパターンです。

今回のハイキングでは、23日の状況は⑤の状況(partⅠ参照)、24日は②の状況になります。ただし、24日の天気図を見ると、③じゃないかと思われる方も多いでしょう。③か④かの判断は地上の天気図では難しいこともあるので、850hPa風+相当温位予想図を見ると良いでしょう。

この天気図は、高度約1,500m上空の風の強さや向き、相当温位を現わしたものです。相当温位とは簡単に言えば、温度と水蒸気量を併せた指標で、
相当温位が高い・・・温かく湿った空気
相当温位が低い・・・冷たく乾いた空気

ということになります。予想図では相当温位が高い所は赤や桃色など暖色系で表示され、低い所は紫色や青、水色など寒色系で表示されます。相当温位は温度に左右されるため、夏場は高くなり、冬場は低くなります。それで、冬は寒色系の表示となりますが、重要なのは高いか低いかではなく、周囲に比べて高いか低いかなのです。

当日の朝(図5)の相当温位予想図を見ますと、関東地方では相当温位が低い寒色系の色が広がっていますが、良く見ると、南東の方向から周囲より相当温位がやや高いエリアが侵入しています。また、能登半島沖の日本海から東北地方の日本海側へも周囲より高いエリアが侵入していますね。また、丹沢は高気圧の左側(西側)に入り(図1)、南風が吹く気圧配置です。南側には相模湾があり、そこからの湿った空気が入りやすくなります。その湿った空気が丹沢の山で上昇させられて雲が発生した訳です。

図2 24日6時の850hPa(高度約1,500m)の風と相当温位予想図

図:山の天気予報専門天気図 https://i.yamatenki.co.jp/より

もうひとつこの天気図から見ておきたいのは風の向きと強さです。風の向きは矢羽で示されています。風の強さは矢羽の羽根の本数を見ます。低体温症や転滑落のリスクが高まる平均15m/s以上の風速は羽根が3本以上の場合です。見方は下図をご参照ください。

図3 風の強さと向きの見方(山岳気象大全「山と渓谷社」より)

実は、2016年4月16日におこなった塔ノ岳での空見ハイキングでも同じような気圧配置となりました(図4)。

図4 4月16日6時の天気図(気象庁提供)

丹沢は高気圧の中心近くにありますが、中心がわずかに東にあるだけで、同じようにどんよりと曇ってしまったのです。詳しくは猪熊隆之の観天望気講座83(下記URL)をご参照ください。

http://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/6951b4542d9cf69887ddf487c8239c33

さて、話を12月24日に戻しましょう。この日は濃霧でスタートしましたが、少し下ると雲の下に入りました(写真2)。また、相模湾では陽が射しているところもあります。

写真2 表尾根縦走路からの相模湾と三ノ塔

このようなときは、雲底の高さの変化を見ると、今後の天気が予想できることが多いです。雲底がどんどん下がっていき、塔ノ岳の山頂付近を覆っていた雲がさらに下がってくるようであれば、天気は崩れていきます。しかし、このときは時間とともに次第に上昇して昼前には塔ノ岳も雲から脱し、昼過ぎには塔ノ岳より標高の高い丹沢山でも雲から脱しました。こうしたときは天気が持つことが多いです。

さらに霧に覆われたときには、上空を見上げてみましょう。霧が濃くて暗い感じのときは雲が厚い証拠です。雨が降り出してもおかしくない状態です。一方、霧が明るいときは、上空では晴れています。そこで、空が段々明るくなってくるようなときは、霧が晴れてくる可能性が高いので、今後の状況に期待しましょう。

24日はこのように天気が回復していき、富士山も再び顔を出してくれました。また、上空には青空が広がっていき、暈(かさ)を見ることができました。暈については第32回をご参照ください(下記URL)。

https://anzentozan.com/mem_class/weather/32

写真3 日暈の出た

さて、このように天気が回復した理由を天気図から見ていきましょう。

図5 24日15時の予想天気図

図:山の天気予報専門天気図 https://i.yamatenki.co.jp/より

天気図を見ると、高気圧は朝よりも東に去っていき、等圧線の間隔も少し狭い領域に入って、南からの風がやや強まっていくことが想定されます。それなのに天気が回復したのはなぜなのでしょう。こちらも地上天気図では分かりにくいので、1,500m上空の相当温位と風の予想図で見ていきましょう。

図6 24日15時の850hPa(高度約1,500m)の風と相当温位予想図

図:山の天気予報専門天気図 https://i.yamatenki.co.jp/より

相当温位自体は6時のもの(図2)より少し高くなっていますが、周囲との状況を比較すると、周囲より高いエリアが東へ抜けて、低いエリアに覆われてきていることが分かります。ということで、湿った空気の入り込みが弱まったことが原因だと思われます。
このように、相当温位を活用して地上天気図では分からない天気を予想することができます。見慣れないうちは見方が難しいですが、慣れてくると、段々使えるようになっていきます。特に、梅雨期や秋雨の時期には大雨を予想するうえで必須のアイテムになってきます。ぜひ、ご活用ください。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

山の天気予報のご案内

ヤマテンでは、全国18山域59山の山頂の天気予報や気象予報士の解説、大荒れ情報や「今週末のおすすめ山域(毎週木曜日発表)」、各種予想天気図、ライブカメラ、ヤマレコの最新記録などをご利用いただける「山の天気予報」を運営しています。また、GW連休期間やお盆期間、海の日、年末年始など連休期間前には週間予報を発表します。ご登録方法やサービスの詳細につきましては https://i.yamatenki.co.jp/ でご確認ください。
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山の天気を実地(山)で学ぶ講座のご案内

観天望気講座を書いている猪熊隆之やヤマテンの気象予報士が講師を務める「お天気講座」を旅行会社で実施しています。山は雲を観察したり、学んだりする最高のフィールドです。それは、平地から雲を見ると、どうしても下から見上げてしまうので、平面的にしか見えないのに対し、山では、立体的に雲を捉えられるほか、稜線や尾根上では斜面を昇ってくる上昇気流によってできる雲を体感でき、山を挟んだ両側における雲の出き方の違いも観察できます。また、観天望気だけではなく、登山前日の天気図から押さえておくべきポイントや、荒れた天気の日は、気象リスクを減らすために登山者がおこなうべきことを解説し、安全登山の方法について学びます。
空気は目に見えませんが、雲は空気の状態を語ってくれています。雲の聞えない声に耳を傾けながら、楽しく山を登りましょう。皆様とご一緒できることを楽しみにしています。

スズラン咲く入笠山/花と空を愛でる山旅 1泊2日

日程:6月16日(土)~17日(日) ヤマテンポイント6※
企画・実施 毎日新聞旅行
6月中旬、入笠山はスズランの白い花が可憐に草原を彩られ、カラマツの新緑が美しい季節です。また、入笠山は南北、中央アルプス、富士山を望む大展望のピーク。山によって天気が違うことを学び、雲見を思う存分楽しみます。宿泊はお食事に定評のあるマナスル山荘。星空にも期待したいですね。
お申込み方法やご旅行代金などツアーの詳細については下記URLでご確認ください。
http://www.maitabi.jp/parts/detail.php?course_no=15169

コマクサ満開の岩手山 空見ハイキング 1泊2日

日程:7月10日(火)~11日(水) ヤマテンポイント6※
企画・実施 アルパインツアーサービス
「南部片富士」の名で知られ、美しい山容を持つ岩手県最高峰の岩手山。空が開けており、空見、雲見を存分に楽しめます。下りはコマクサの大群落では日本一との呼び声高い焼走りルートを通り、花見も満喫します。
お申込み方法やご旅行代金などツアーの詳細については下記URLでご確認ください。
http://www.alpine-tour.com/japan/2018_04/091a.html

ニッコウキスゲ咲く車山高原で雲を読み、天気を学ぶ 日帰り

日程:7月21日(土) ヤマテンポイント3※
企画・実施 中日ツアーズ
車山、霧ヶ峰は本州中央部に位置する2,000m級の高原。7月中旬から下旬は例年、ニッコウキスゲが咲き乱れ、草原は黄色い絨毯のように染まります。また、天気が良い日には中部山岳のほとんど全ての山を望むことができ、雲や山の天気を学ぶにはピッタリの環境です。車山ビジターセンターでミニ机上講座の後、花見と空見を楽しみます。
お申込み方法やご旅行代金などツアーの詳細については下記URLでご確認ください。
https://www.chunichi-tour.co.jp/aruku/detail.php?kiji_id=6791

2018年8月以降の空見ハイキング、登山ツアーにつきましては下記URLでご確認ください(8ページ)。
http://www.alpine-tour.com/japan/2018-04-catalog.pdf

2018年8月以降の空見ハイキング、登山ツアーにつきましては下記URLでご確認ください(8ページ)。
http://www.alpine-tour.com/japan/2018-04-catalog.pdf

山の天気を学ぶ机上講座のご案内

ヤマテン主催「山のお天気講座」(東京会場)

日程:7月8日(日) ヤマテンポイント午前、午後各1ずつ※
初級編「雷と局地豪雨から身を守ろう(初級編)」(10:30~12:00)
中級編「高層(専門)天気図から予想する台風と落雷、局地豪雨」(13:30~15:30)
※会場やお申込み方法につきましては、後日発表いたします。

今年度の9月以降の講座及び、大阪、名古屋の講習会の予定は下記URLでご確認ください。
http://yamatenki.co.jp/course.php

参加費は、一般の方は3,000円ですが、ヤマテン会員の方は2,000円となります(基礎編、中級編両方をお申込みの方は一般の方5,500円、ヤマテン会員の方は3,500円と、500円割引になります)。なお、会員割引は、開催当日に会員になっていただいてる方が対象となります。

※ヤマテンポイントについて

ヤマテンの気象予報士が講師を務める講習会にご参加いただいた皆様にポイントを進呈させていただきます。
机上講座は1回参加につき1ポイント、空見ハイキングなど山での実地講座については1日につき3ポイント(旅行会社企画・実施のものも含みます)を進呈させていただきます。
特定のポイントが溜りますと、素敵なプレゼントを贈呈させていただきます。
詳細につきましては、 http://yamatenki.co.jp/point.php でご確認ください。

雲を学べる絵葉書11枚入りセット(10ポイント溜まるとGET!)

2018年のヤマケイ登山教室 山岳気象講座の日程は下記の通りです。

東京会場(アルパインツアーサービス本社) 19時~21時
受講料:2,000円 ヤマテンポイント各1ずつ

第1回*  4月24日(火) ・・・終了しました
第2回 5月15日(火) ・・・終了しました
第3回 6月5日(火) ・・・終了しました
第4回 7月17日(火) 落雷と短時間強雨~夏山のリスクを避けるために~
第5回 8月21日(火) 台風のリスクを予想する
第6回 9月18日(火) 秋山の気象~低体温症から身を守るための知識~
第7回 10月16日(火) 観天望気~雲から学ぶ天気の基本~

お申込み、お問い合わせはアルパインツアーサービス株式会社へ。
http://www.alpine-tour.com/japan/_j_office.html
http://www.alpine-tour.com/japan/

猪熊隆之(いのくまたかゆき)

国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテン http://yamatenki.co.jp/ の代表取締役。中央大学山岳部監督。国立登山研修所専門調査委員及び講師。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。チョムカンリ登頂(チベット)、エベレスト西稜(7,700m付近まで)、剣岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀歴がある。著書に山の天気にだまされるな(山と渓谷社)、山岳気象予報士で恩返し(三五館)、山岳気象大全(山と溪谷社)。共著に山の天気リスクマネジメント(山と渓谷社)、安全登山の基礎知識(スキージャーナル)。

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