雲から山の天気を学ぼう|(18)~疑似好天に騙されるな!~

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~疑似好天に騙されるな!~

今回は、疑似好天を観天望気から予想する方法についてお話しします。

疑似好天とは、一時的に天気が回復した後、天候が急変して風雨や風雪が強まるなど天候が回復したように見えて、実は一時的な回復にしないような天気のことを言います。

過去には1989年10月連休の立山での大量遭難や、2012年GWの北アルプスでの大量遭難など、疑似好天によって起きているものが少なくありません。

山麓の予報(無料サイトでは、山の天気予報と書かれていても実際には山麓の予報であることが多いので注意)では予想できないことが多く、山頂の精度の高い予報を発表している所でも、悪天となる時間が早まったりすることがあります。

したがって、最終的には現場で天候悪化を予兆させる雲が現れないか確認することが大切です。疑似好天は日本海側の山岳で多く発生します。そこで、ここでは北アルプスや白山、谷川連峰、越後三山、飯豊・朝日連峰、月山など日本海側の山岳で疑似好天の前に見られる雲の変化について説明します。

1.登山口で山にかかっている雲を確認

登山口で山に雲がかかっているかどうか確認しましょう。たとえ、山麓で晴れていても下の写真(写真1)のように山にベッタリ雲が張り付いている場合、山では荒れた天気になっていると思ってください。
写真1 八方尾根からの白馬三山方面にかかる雲

下の写真(写真2)は、上の写真と同じ日の1時間後のものです。このように時間とともに、山に張り付いている雲が大きくなり、次第に中腹以下を覆うようになってくるときは、天候が悪化していきます。

写真2 写真1の約1時間後の状況

こまでの写真は白馬村振興公社提供(八方池山荘のライブカメラより)
別の疑似好天の日の雲変化を見ていきましょう。今度は、山の上にも雲がない場合です。

写真3 白馬山麓からの白馬岳

写真3を見ると、山に雲がかかっているように見えますが、これは山の手前にある低い雲で、実際には稜線でも青空が広がっています。山に陽が当たっているのが分かりますよね。この後も好天が続くと思ってしまいそうな空です。

ところが・・・。

写真4 写真3の約1時間後の状況

山の上に雲が張り付いてきました。さらに・・・。

写真5 写真4の数時間後の状況

上の写真(写真5)では山全体を雲が覆うようになってきました。この時点で山は猛吹雪となりました。

このように、山に張り付く雲について観察することが、疑似好天を判断する際に大切です。

2.日本海の方向にある雲を確認

日本海側の山岳で天気が大きく崩れるときは、日本海の方向から雲が接近してきます。稜線や、日本海の方向が見渡せる尾根上にいるときには、日本海(多くの山岳では西や北西側)の方向の空を頻繁に観察するようにしましょう。

下の写真(写真6)は、あるゴールデンウィークの日の空です。この日は山麓の天気予報では好天を予想しており、山頂の予報でも午後からの崩れを予想していましたが、予想より早く、午前中から崩れてきました。この天候悪化などの影響により、北アルプスでは遭難が相次ぎました。

写真は燕山荘から燕岳、立山方面を見たものです。つまり、北~北西方向にあたり、日本海の方向になります。白い盛り上がった雲と灰色の雲がうねったように連なっています。

これはレンズ雲と言い、上空の風が強いときにしか発生しません。既に稜線では風が強まっているか、今強まっていなくても今後、急速に強まっていくことを示しています。

写真6 レンズ雲が浮かぶ空。燕山荘から北~北西の燕岳~立山連峰方面を望む

さらに時間が経つと、雲は厚くなり、レンズ雲は灰色に変わっていきます(写真7)。こうなると、悪天になるのに時間がかかりません。この状態で撤退するのは遅すぎます。上の写真の状況から、今日の天気が予想より早く崩れることを察知し、表銀座方面の縦走を取りやめ、燕岳の往復に切り替えたり、合戦尾根を下山するという判断をすることが大切です。

写真7 鉛色の雲が広がってきた燕岳上空

ここまでの写真は燕山荘さんにご提供いただきました。

また、日本海の方向に写真8、9のような雲が現れたときは要注意です。

写真8 日本海の方向に浮かぶ積乱雲の雲列(新潟市付近)。このような雲列が日本海から迫ってくるとき、山は大荒れの天気となっていく。

上の写真を見ると、もくもくとした雲が帯状に連なっています。山の上から見ると、雲底の暗さは見えず、もう少し白っぽい雲が連なっているように見えます(写真9)。また、雲底が暗くなっています。これらの雲が違づいてくると、天気が急変し、落雷や強雨、強い雪、突風などの激しい気象現象をもたらします。

写真9 北アルプス上空の雪雲

登山前には山の上の雲を、登山中には日本海の方向や上部にかかる雲をチェックして、天候悪化を察知しましょう。

※図、文章、写真の無断転載、転用、複写は禁じる。

写真(白馬村振興公社、燕山荘提供以外のもの)、文責:猪熊隆之

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猪熊隆之(いのくまたかゆき)

国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテン http://yamatenki.co.jp/ の代表取締役。中央大学山岳部監督。国立登山研修所専門調査委員及び講師。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。チョムカンリ登頂(チベット)、エベレスト西稜(7,700m付近まで)、剣岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀歴がある。著書に山の天気にだまされるな(山と渓谷社)、山岳気象予報士で恩返し(三五館)、山岳気象大全(山と溪谷社)。共著に山の天気リスクマネジメント(山と渓谷社)、安全登山の基礎知識(スキージャーナル)。

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