雲から山の天気を学ぼう(第15回)

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八ヶ岳における雲 ~西風partⅡ~

前回に続き、今回も八ヶ岳に現れる雲の特徴のうち、西風が吹くときの雲について解説していきます。高い山ほど上空の偏西風の影響で西風が吹くことが多く、年間を通じて西風が吹くことはもっとも多くなります。さて、前回のおさらいになりますが、同じ西風でも天気が悪くなるときと、良くなるときがあり、それを左右するのは以下の気象条件です。

1.風速の変化→西風が強まっていくときは天気が崩れることが多い
2.風向きの変化→西風が南寄りに変わっていくときは天気が崩れることが多い
あああああ→西風が北寄りに変わっていくときは天気が回復することが多い
3.水蒸気量の変化→水蒸気が多い空気(湿った空気)が入ると、天気が崩れる。
あああああ→水蒸気が少ない空気(乾いた空気)が入ると、天気が回復する。
あああああ →水蒸気が少ない空気(乾いた空気)が入ると、天気が回復する。

これにもうひとつ加えると、4.上層の寒気 ということになります。第10回で学びましたように、雲にはやる気がある雲とない雲があり(笑)、やる気がある雲はもくもくと上方に成長していって、落雷や突風、局地豪雨、大雪などをもたらす雲になることがあります。雲にやる気を出させる原因のひとつは、「上層の寒気」です。上空に冷たい空気が入ってくると、地面付近との温度差が大きくなり、雲はやる気を出していきます。特に、冬季においては、西風が強まるときに、上層に寒気が入ってくると、八ヶ岳では大荒れの天気になることが多くなります。上層の寒気の見方については、また別の回に詳しく説明していきたいと思います。

さて、大分季節を先取りした話題になりますが、冬になりますと、冬型の気圧配置と呼ばれる気圧配置が現れることが多くなります。気圧配置とは、気圧の大まかな位置関係を表したもので、例えば、高気圧が南にあり、低気圧が北にあるような気圧配置は「南高北低型」と呼ばれます。冬型の気圧配置は、文字通り、冬によく現れる気圧配置なのでそう呼ばれます。また、中国大陸の奥地(日本から見ると西側)に高気圧があり、千島列島方面(日本から見ると東側)に低気圧があるので、「西高東低型」とも呼ばれます。
冬型の気圧配置になると、日本海側で天気が崩れ、そのようなとき、天気予報で気象予報士が「北陸から北の日本海側では雪や雨、関東から西の太平洋側では晴れ」と言います。八ヶ岳の場合は、真ん中にあるので「日本海側の天気を見ればいいの?太平洋側の天気を見ればいいの?」と迷うことがあります。位置的には長野県中部に属しますが、冬型のときは、長野県中部や茅野市の天気予報を見ても当たりません。長野の予報は、長野県北部の予報なのでこれを使ってもうまくいきません。また、一口に冬型の気圧配置といっても色々なパターンがあり、八ヶ岳の天気もそれによって異なってきます。

「そんなこと言われたら、どうしたらいいの?」という方は、ヤマテンの天気予報を見ていただくのが一番ですが(笑)、「私は自分で予想したいのよ。」という模範的な登山者は、天気図と上層の寒気の予想図(500hPaの気温予想図)を見ていきましょう。そして、登山口で雲を見ていけば、山上の様子が分かります。

ここで重要なのが、またしても「風」と山脈や稜線、尾根の向きです。八ヶ岳は南北に連なった山です。風は、山脈が走っている方向に直角な方向から風が吹くときにもっとも強まります。山の上に立つと、大体、山脈に直角な方向から風が吹きます。風は障害物があると、それを避ける傾向があり、もっとも障害物がない(摩擦がない)のが山脈に直角な方向だからです。上空で本来吹くはずの風(天気図上から読み取れる風向)と山で実際に吹いている風向きが同じときに、風がもっとも強まるのです。そこで、天気図上から読み取れる風向き(山岳気象大全p29参照)が山脈に直交している向きのときに風が強いと判断しましょう。また、直交しているときは、山脈の風上側全体で上昇気流が起きるので、雲がかかりやすくなります。このようなときに、上層に寒気が来て雲がやる気を出せば、雪を降らせる雲となるのです。

※図1 風向きによる雲の発生の違い(北アルプスの場合)
inokuma_15_1
八ヶ岳以外の山でも北アルプスや中央アルプス、南アルプスなど南北に連なった山岳では、やはり西風や東風のときに風が強まりやすく、雲も発生しやすいということになります。

※図2 長野県の山岳における山脈と風向との関係
inokuma_15_2

冬型の気圧配置と言えば、図3のように、等圧線が南北に走る縦縞模様になることが多いです。このようなとき、地上付近では北西風が吹きます。八ヶ岳の場合は北西側に北アルプスという高い山岳が連なっているので、北西から風が吹くときは、北アルプスという障害物に邪魔されて風は多少弱まり、日本海からの湿った空気も北アルプスを越えることができないため、天気の崩れが小さくなります。

図3 縦縞模様の一般的な冬型(気象庁提供)
inokuma_15_3

八ヶ岳では北風系となるため、雲が発達しにくく、降雪はあっても弱いものです。下の写真は、このようなときの八ヶ岳にかかる雲です。雲のてっぺんは平たくなっており、高度も低いことが分かります。

写真1 通常の冬型時(北風系)に八ヶ岳にかかる雲(茅野市側から八ヶ岳を望む)
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図4 東西に寝た形の冬型(気象庁提供)
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図4は図3に比べると、等圧線が東西に寝ています。つまり、西風が吹くタイプの冬型です。南北に連なる八ヶ岳の場合は、雲が発生しやすくなる形です。また、西風の場合には、北アルプスという大きな障害物がなくなり、乗鞍岳と御嶽山の間を湿った空気が抜けてくるため、天気が崩れやすくなるのです。
このようなとき、500hPaで-30℃以下の寒気が流れ込み、等圧線の間隔が狭い強い冬型になると、八ヶ岳の稜線では風雪が強まり、里でも時折ふぶきます。写真2はそのときの茅野市蓼科地域から八ヶ岳方面を見た写真です。写真1と比べると雲は暗灰色で、厚みもあります。このような雲がかかっているときは、山では大荒れです。八ヶ岳では赤岳鉱泉、行者小屋、黒百合ヒュッテなど森林限界の手前までの行動にしましょう。

写真2 西風系の冬型で、上層の寒気が強いときの雲(茅野市側から八ヶ岳を望む)
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一方、写真3は同じ場所から甲斐駒ケ岳方面を見た写真です。東京から来られる方は、特急あずさに乗って韮崎から先、左側に鳳凰三山から甲斐駒ケ岳を望むことができますが、このような雲がべったり張り付いているときは、荒れた天気になっています。雲の上を見ると、風になびいており、これは風が強まっている証拠です。また、西側に中央アルプスという障害物がある南アルプスがこのように雲に覆われているときは、障害物の少ない八ヶ岳の天気はもっと悪くなっていますので、荒天を覚悟しましょう。

写真3 甲斐駒ケ岳から入笠山方面にかかる雪雲
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※図、文章、写真の無断転載、転用、複写は禁じる。

文責:猪熊隆之(いのくま たかゆき)

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猪熊隆之(いのくまたかゆき)

国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテン http://yamatenki.co.jp/ の代表取締役。中央大学山岳部監督。国立登山研修所専門調査委員及び講師。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。チョムカンリ登頂(チベット)、エベレスト西稜(7,700m付近まで)、剣岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀歴がある。著書に山の天気にだまされるな(山と渓谷社)、山岳気象予報士で恩返し(三五館)、山岳気象大全(山と溪谷社)。共著に山の天気リスクマネジメント(山と渓谷社)、安全登山の基礎知識(スキージャーナル)。

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