雲から山の天気を学ぼう(第14回)

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    八ヶ岳における雲 ~西風partⅠ~

今回は、八ヶ岳に現れる雲の特徴のうち、西風が吹くときの雲について解説していきます。高い山ほど上空の偏西風の影響で西風が吹くことが多く、年間を通じて西風が吹くことはもっとも多くなります。同じ西風でも天気が悪くなるときと、良くなるときがあり、それを左右するのは以下の気象条件です。

1.風速の変化  →西風が強まっていくときは天気が崩れることが多い

2.風向きの変化 →西風が南寄りに変わっていくときは天気が崩れることが多い

→西風が北寄りに変わっていくときは天気が回復することが多い

3.水蒸気量の変化→水蒸気が多い空気(湿った空気)が入ると、天気が崩れる。

→水蒸気が少ない空気(乾いた空気)が入ると、天気が回復する。

このうち、今日は1.風速の変化によって天気が崩れていく兆候について見ていきます。

西風が強まっていくときの八ヶ岳の雲

2月27日(土)~28日(日)にかけて、「山の天気ハイキング in 北八ヶ岳プチ縦走」では初日に、西風が強まっていく状況でした。このときの気圧配置が図1になります。

図1 2月27日9時の実況天気図

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天気図を見ると、日本海西部に低気圧があり、東へ進んでいます。八ヶ岳では次第に低気圧の南側に入っていく形です。このように、低気圧が北側を通過するとき、中部山岳では風が特に強くなります。

風が強いときにできる雲として代表的なものにレンズ雲があります。レンズ雲は山岳波と呼ばれる、風が波打つことによってできる雲のひとつです。ある程度以上、風が強く、山脈に直交する方角から風が吹くときに見られます。また、上空の大気が安定していることで上空に波が伝わりやすくなり、レンズ雲ができやすくなります。

図2 山岳波のでき方(山岳気象大全「山と渓谷社」より)

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この雲が現れるときは、たとえ天気図上で等圧線の間隔が広がっていても風が強くなりますので、登山口や登山中に、開けた場所に出たら、この雲が出ていないかチェックしましょう。

強風は登山においてもっともリスクの高い気象要素です。風は体温を下げるもっとも大きな要因となるため、強風の中を長時間歩くと、低体温症や凍傷になるリスクがある他、テントの損壊や、強風による転滑落のリスクもあります。ある意味、登山においては天気以上に重要な気象要素なのです。

さて、今回のツアーではレンズ雲が見られました(下の写真)。

写真1 高見石からの白駒池とレンズ雲

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上の写真は凍結した白駒池を高見石から見下ろした写真ですが、上空にはレンズ雲(写真の左端と右端)が見られます。

また、それだけでなく、山岳波による帯状の雲も見られました(写真2)。

写真2 八ヶ岳の風下(東側)に見られた山岳波による雲

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また、天気図を見ると、低気圧は午後になると八ヶ岳の北側に入り、中部山岳にもっとも近づきます。前日の予想天気図でもそれは予想されていました(図3参照)。

図3 2月27日15時の実況天気図

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従って、稜線では午後、風が強まることが想定されていた訳です。実際、私たちが小屋に着いた後、風が一層強まり、根石岳山荘を目指していた別グループは、小屋に到着する直前に、体のバランスを崩す程の強風に襲われました。このようなときは、風の影響が少ないルートに変更することをおすすめします。今回は高見石から麦草ヒュッテまで歩く予定でしたが、稜線上を歩くと、風の影響を受けやすいので、白駒池に一旦下りるルートを選択することにしました(元々の計画もそうなっていましたが)。

 

また、長く稜線上のルートを歩かなければならない場合は、森林限界を越える所や尾根に出る所など、風が急激に強まる前で防寒着を着込んだり、フードを被ったり、目出帽をするなど防風対策を万全にしなければなりません。強風下や暴風雪(雨)の中で着替えることは容易でなく、着替えている間に濡れてしまいますし、ものが吹き飛ばされる危険性もあります。それらが低体温症に陥る要因になることもあるのです。

さらに、そこから先に進むかどうかの進退判断も森林限界を越える所や、稜線や尾根に出るなど、風の影響を強く受ける場所の手前でおこないます。メンバーの体力や体調、スピード、目的地までの距離、避難小屋など風を避けられる場所の有無、エスケープルートの有無などから判断していきます。

そうした判断に自信がない場合には、ガイド登山やツアー登山に参加して、そのような判断を学ぶのも一つの手でしょう。

 

※図、文章、写真の無断転載、転用、複写は禁じる。

 

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

 

猪熊隆之(いのくまたかゆき)

全国18山域、59山の天気予報、大荒れ情報、専門天気図、雨雲レーダー、山のライブカメラ、ヤマレコの最新記録などが見られる「山の天気予報」(https://i.yamatenki.co.jp/)サイトを管理している株式会社ヤマテン(http://yamatenki.co.jp/)の代表。

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