長野県で事業仕分けの対象になった山岳遭難救助活動経費

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今年の9月3〜5日にかけて、長野県県庁と伊那合同庁舎において「信州型事業仕分け」が実施される。これは、昨年の長野県知事選で初当選した阿部守一氏が公約として掲げていたもので、今年1月に続いて2回目の仕分けとなる。
今回の仕分け対象となっているのは長野県内の計50事業だが、問題はそのなかに「山岳遭難救助活動経費」が含まれていることだ。これは、長野県警山岳遭難 救助隊による遭難救助や遭難事故防止、遭難救助訓練などにかかる活動費全般のことで、長野県のウェブサイトに掲載されているデータによると、近年の決算額 は次のようになっている。

平成20年度 161万4000円 (旅費72万円 需用費83万2000円 役務費1万2000円 借料5万円)
平成21年度 161万2000円 (旅費72万円 需用費83万2000円 役務費1万円 借料5万円)
平成22年度 121万1000円 (旅費72万円 需用費43万7000円 役務費9000円 借料4万5000円)
平成23年度(予算)  183万8000円 (旅費72万円 需用費106万円 役務費8000円 借料5万円)

 

 ちなみに()内は費用の内訳であるが、旅費というのは救助活動やパトロール時の山小屋宿泊費、需用費と役務費は救助や事故防止活動に必要な装備品の購入費等、賃料は施設借上げ費用のことである。

 北・南・中央アルプスをはじめとする人気山岳エリアを抱える長野県には、年間を通しての多くの登山者が訪れる一方、遭難事故も増加の一途をたどっ ている。昨年度の県内における遭難発生件数は213件を数え、遭難者数は231人にのぼった。いずれも過去最悪の数字であり、近年は都道府県別に見ても ワースト1となる年がずっと続いている。
国内で有数の山岳県である以上、他県に比べて遭難事故が多発するのはある意味、仕方のないことであり、 長野県警山岳遭難救助隊は1960年の発足以来(当時の名称は「長野県警山岳パトロール隊」)、遭難救助および遭難事故防止活動に力を注いできた。現在は 機動隊および航空隊、それに主要山岳を管轄する警察署などに計27人の救助隊員を配備し、遭難事故発生時にはその救助に当たるとともに、ゴールデンウィー クと夏山期間中の涸沢常駐、各山域でのパトロール、登山口での登山者指導、定期的な訓練などを行なっている。
そうした活動を考えると、年間200万円にも及ばない活動費は逆に少なすぎるぐらいに感じられる。
たとえば救助活動に必要な登山用具は消耗品であり、不具合が生じる前に買い替えなければならない。また、作業の安全性とスピードを高めるためには最新の装 備が必要になることもある。装備の不備は、救助に支障をきたすばかりか、二重遭難を引き起こすことになってしまう。ところが、支給される活動費だけではそ の装備さえ充分にそろえることができず、隊員らは自腹を切って必要な登山用具を購入し、新人隊員は先輩隊員のお下がりを使い回しているのが現状である。旅 費(山小屋宿泊費)にしても、彼らは遊びで山に登っているわけではない。救助やパトロールを行なううえで必要不可欠だから利用しているのだ。それとも「経 費節減のため、テントに泊まってパトロールしろ」とでも言うのだろうか。

 山岳遭難救助活動経 費が仕分けの対象となったのは長野県民からの提案であり、その根拠は「遭難救助に係る費用の有償化、民間主導で行う体制の検討が必要」との理由からだとい う。個人的に私は「救助費用の有料化・受益者負担」には賛成の立場をとり、民間による救助システムの確立も検討されるべきだと思っている。そういう意味で は、今回の事業仕分けによって、今後の救助システムのあり方について真剣に論議されるようになるのであれば、これをいい機会と捉えることもできる。
だが、それが単なる建て前で、経費を削減することのみに目的があるのだとしたら、見当違いもはななだしい。そもそも救助費用の有料化や民間救助組織の立ち 上げはそう簡単に実現するものではない。実現させるには充分な論議が必要だし、「じゃあそうしましょう」という話になったとしても、体制を整えるまでに長 い時間がかかるだろう。
それが整う前に遭難救助の活動費を仕分けてしまうのは、いくらなんでも時期尚早である。活動費の削減云々は少なくとも今なされるべき論議ではなく、新しいシステムが構築されたときに検討すればいい話だ。

 現在、長野県内では 遭難事故が増え続けており、それに対処できるのは長野県警山岳遭難救助隊以外にない(遭対協という組織もあるが、遭難救助活動は警察が主導する形で行なわ れている)。しかも、彼らは少ない予算のなかで苦しいやりくりを強いられており、これ以上経費を削られてしまったのでは、助かる者も助けられなくなってし まう。
ではどうしたらいいのかという、現実に即した対応こそが、今の行政に求められているものだと思う。
この信州型事業仕分けを進め る長野県の行政改革課は、「予算の削減ありきではなく、逆に予算の拡充となる場合もある」というコメントを出している。もしその言葉どおりであるのなら、 山岳遭難救助活動経費が拡充される可能性もあるわけで、むしろそうならなければおかしい。今後の経過が気になるところである。
なお、今回の仕分けの対象となる事業のなかには、遭対協の活動費にあたる「山岳遭難防止対策協会負担金」もリストアップされている。こちらも結果次第では今後の民間救助隊の救助活動に大きな影響が出てくることも考えられる。
県警救助隊の活動費の問題ともども、朗報が届けられることを願っていたい。

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